Cyber NINJA Archives

2016年からの旧ブログを整理・修正して収納します。

南スーダンの友人

 元々スーダンという国は、アフリカ最大の面積を持っていた。ナイル川の源流があり、古来ヌビアと呼ばれエジプト史にも精強騎兵・歩兵の供給源として記録されている。長い紛争の末、2011年に南スーダンが分離独立したが今また現地の治安が悪化、日本政府は自衛隊を派遣して邦人保護にあたっている。
 
 南スーダンにはキリスト教徒もいるが、全体としてはイスラム教がほとんどだ。僕が初めてイスラム教徒に出会ったのは、学生時代の研究室だった。彼はスーダン大学の助手だったが、留学生として日本に来ていた。日本語は不慣れなところもあったので、コミュニケーションは英語ですることもあった。
 
 研究室では、時に「コンパ」と称する宴会もある。彼は酒も飲まず、ニコニコと場を楽しんでいるようだった。不信心の日本人学生(酒癖の悪いのもいた)が、なぜ酒が呑めないかと迫っても、これはスーダン語でどういうのかとぶしつけな質問をしても、ただニコニコしていた。もちろん、スーダン語というものは存在しない。かの国ではアラビア語と(知識層では)英語が使われる。
 

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 やがて彼は母国に帰り、しばらくは音信があった。母国で教鞭をとっていたようだ。しかし、何度目かの紛争のおりに行方不明になった。うわさでは革命勢力に拉致されたという。もし、本当なら命はない。
 
 カンボジアポル・ポト政権が有名だが、知識層は抹殺すべき相手なのである。知識層がいるから貧富の差が広がり、多くの人が不幸になる。ならば知識層を抹殺して、みんな横並びのコミュニティを作ればいいという理屈。彼のように先端的な工学を学び、それを教えることにのできる人材は「悪魔」に見えるのだから如何ともしがたい。
 
 教育は国の根幹である。ミャンマーに何か支援をと依頼されたときは、迷わず高等教育教員への知識支援を選んだ。先端技術を学んできた人材を敵視するような体制では、国が繁栄するはずがない。スーダン南スーダン含めて国家統治の最も脆弱な国に挙げられていて、GDPも低位にある。
 
 正確な彼の生年月日を知らないので、もし生きていたら65歳は超えていただろうとしか推定できない。有為の人材を生かせれば、内戦やハイパーインフレ、多くの難民を生み出した悲劇を避けえたかもしれないとも思う。
 
<初出:2016.7>