デフレの克服が安部政権の第一目標だとして、政権も4年目になっている。日銀がGDP成長目標を掲げて金融緩和をし、円安になって輸出型産業から企業業績は改善した。ではデフレは止まったのか、というとそうも言い切れない。豪華な食事のイメージがあるビーフステーキでさえ「いきなりステーキ」という立ち食い格安店が登場した。近所の同店も昼食時は長蛇の列である。
20年以上前のことだが、プログラム開発のインドへの発注に関わったことがある。プログラム開発者を1ヵ月雇って100万円くらいが相場だったが、インドに発注すると20万円くらいで済んだ。これも中間の企業(確かシンガポールだった)が仕様書の翻訳や契約をするフィーを含めてだから、実質10万円/月くらいだったのだろう。
それまで海外というと米国西海岸か西欧しか知らなかった僕にとっては、衝撃的なことだった。そういえばPCの生産の多くは台湾に移っていた(もちろん安く作れるから)ことを思い出し、プログラム開発もオフショアになるのかと思った。それ以降、中国はもちろんタイやベトナム、果ては以前ご紹介したミャンマーまで含めてオフショア開発は広がってゆく。
グローバル経済というのは、世界で一番安いところで調達し一番高く売れるところで売るのが理想だ。それが人間までも対象にしていることを理解したのは、その時だった。かつて、インドのプログラマと日本のプログラマの収入には10倍の差があった。それが徐々に縮小してきた。最終的には等価になるだろう。ある意味での「同一労働・同一賃金」である。
そういう業界にいるからか、僕は日本でデフレと考えられているものは、世界の物価の平準化なのではないかと思っている。発展途上国で、$2/日で暮らしていた人たちが$10/日の生活水準になる。その人たちと同じ労働をしていて$100/日の収入があった先進国の人たちは、$50~70/日に抑えられかねない。グローバル化が進めば、$30/日あたりで落ち着くようになるのかもしれない。
先進各国政府が「中間層の復活」を掲げて政策の議論をしているが、もし上記が当たっているとすると対策は2つしかない。
・世界中の人が、$30/日以上で生活できるように、途上国支援を行う。
・グローバル化をあきらめ、国境を閉ざす。
英国のEU離脱も米国のトランプ現象・サンダース現象も、この2番目の方針に従ったもののように思う。ただ、2つの対策共実現はほぼ不可能ではなかろうか?
<初出:2016.7>