Cyber NINJA Archives

2016年からの旧ブログを整理・修正して収納します。

人を殺すための予算

 日本共産党の藤野議員が、NHKの日曜討論で防衛費を指して「人を殺すための予算」と発言して物議を醸している。もちろん批判も承知の上の発言だろうが、各党から「言い過ぎだ」「取り消せ」と非難を浴びることになった。さらに「そのような発言をする政党とどうやって連携するつもりか」と、民進党にまで矛先が向けられる羽目にもなった。
 
 予算もそうだが、技術というのも見方によっては「人を殺すための」ものの一面を持っている。原子力などはその分かりやすい例だと思う。アルキメデスは有名な数学者・科学者だが、第一次ポエニ戦争ではシラクサでローマ軍を迎え撃ち、起重機や光線兵器を使ってローマ軍船を攻撃したという。
 

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 原題は"How to make WAR" となっているが、内容は邦題の方が正しい。1982年に初版が発表されたものの改訂版(1988年)で、日本では1992年に翻訳・出版されている。20世紀終盤における各国の軍備・兵器・運用から、戦争にかかるコストの計算まで示されている。
 
 ジェイムズ・F・ダニガンには「戦争回避のテクノロジー」という著書もあるが、彼は軍事評論家ではなく有名な(伝説のというべきかもしれない)ゲーム・デザイナーである。多くのシミュレーション・ウォー・ゲームをデザインした知識やデータが下敷きになっているので、読み込むと「戦争」の実相が見えてくる。
 
 実際に起きたことについてはいろいろな統計値がある。例えば、歩兵の負傷者の1/3は死亡するとか、いかなる重砲でも兵士を即死させることは少ないとか、である。しかし、この本には起きていないこと(例:大規模核戦争)や検証されていない新兵器(例;ドローン)に関する記述もある。これらについては、過去の事例や知見によって「最も確からしい」結論をダニガンらしい手法で予測している。
 
 元はといえば、今僕たちが恩恵を受けている技術であるインターネットも、GPSも軍事技術だった。技術そのものには目的はない。技術を使う人間が人を殺す目的を持てば、それは人を殺す技術と呼ばれることになるかもしれない。それでも総合的に見れば、技術は人類社会の向上に貢献していると思う。
 
<初出:2016.6>