Cyber NINJA Archives

2016年からの旧ブログを整理・修正して収納します。

天才的なレトリック

 自衛隊の「駆けつけ警護」を巡って、あまり意味のないレトリック論争が国会を空転させている。南スーダンでは政府軍と反政府勢力が争って、双方に死傷者が出ているし住民にも被害が及んでいる。これが「戦闘」なのか「衝突」なのか、政府・野党間での論争の的になってしまった。

 アメリカ国内でも一般に売られている"AR-15" や"AK-47" "AK-74" などは、ひどく安く手に入る。日本のモデルガンやガスガンより安いくらいだ。ましてや紛争国の付近に行くと、$10/丁もしないという。それでも戦闘能力は非常に高く、30発の5.56mm/7.62mm弾を数秒でバラ撒くことができる。300m以内に敵性勢力と共にこれがあると、大変な脅威と言える。

 ロケットランチャーやクレイモア地雷など持ち出さなくても、これらの自動小銃で相手を殺そうと思って撃ち合えば、これは立派な戦闘行為。また、両勢力が衝突したという表現も間違ってはいない。言葉の使い方次第である。政府は憲法などの制約の中で自衛隊の海外ミッションを説明するのに苦慮している面があって、海外から見れば明らかに軍隊である彼らに「安全なところ、現に戦闘中でないところ」で任務をさせると表では言い続けているのだろう。

 そもそも「駆けつけ警護」という言葉も不思議である。ある勢力が武装した敵に襲われて救援を求めている。これに向かって駆けつけ、警護をするというのだから、どう見ても「救援」か「増援」である。このシチュエーションなら、守ってあげるということは襲撃している敵武装勢力を攻撃して追い払うか、敵を釘付けにしてその間に逃がしてあげるくらいしか考えられない。警護というよりは、脅威の排除つまり攻撃である。

 このように攻撃的要素の強いミッションを、駆けつけ警護というレトリックで和らげているのだ。誰が考えたのか知らないが、うまい表現である。考えてみれば、このようなレトリックは結構ある。防衛装備品移転というのもそれ。武器輸出三原則があるので、あからさまに武器かそれに類するものは輸出できない。しかし、このグローバル時代に自国でしか使っていない武器にどれほどの意味があるだろうか。だから武器⇒装備、輸出⇒移転と言葉を変えたわけ。

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 もうひとつある。確定拠出年金というのもそうだ。従来の企業年金は、従業員と企業が一緒に積み立て引退後は決まった給付が得られるというものだった。いわば確定給付年金。しかし、金融市場の影響も大きくなり、定額の給付が出来るかどうかは不透明になってきた。加えて従業員個人もリスクをとってもいいと思う人も出てきて、運用を個人の選択に一部任せてはどうかという案が出てきた。

 この考え方そのものは間違っていない。個人を企業に過度に結び付けているきらいもある年金制度を、ある程度個人に取り戻す意味があるからだ。しかし当然リスク年金なので、選択した運用方法によっては給付が減ること/増えることがある。いわば不確定給付年金である。それを給付のことは言わず、拠出金は個々人によって決まっていますよ~とだけ言って「確定拠出年金」と称したわけ。恐るべし、霞ヶ関官僚のレトリック。

 

<初出:2016.10>