Cyber NINJA Archives

2016年からの旧ブログを整理・修正して収納します。

漸減要撃作戦

 軍縮条約で、米国・英国の5に対し主力艦の比率を3に抑えられた日本海軍は、漸減邀撃作戦というものを考えた。軍人は前の大戦のドクトリンで、次の大戦を戦おうとする、と前に述べた。日本海軍は、日本海海戦(1905年)の戦訓で「日本近海での米国主力艦隊の撃滅」を、1930年代になっても想定していた。
 
 しかるに、米国だけでも日本の2倍近い、英米合わせれば3倍以上の主力艦を持った敵に、どうやって対抗するかが課題になっていた。結局、侵攻してくる敵主力艦隊に、潜水艦・陸上攻撃機飛行艇駆逐艦巡洋艦といった補助戦力をぶつけて、主力艦を減らしてゆき、同じくらいの数になったところでこちらの主力艦を出して決戦するというところに落ち着いた。これが漸減邀撃作戦である。
 
 英国新鋭戦艦プリンス・オブ・ウェールズ巡洋戦艦レパルスを沈めた陸上攻撃機部隊も、その思想で整備されたものである。潜水艦は長大な航続距離を持たせるため大型化し、主力艦を狙える程度の速力を備えさせた。航続距離や速力は重視せず、小型の潜水艦を多数大西洋にバラまいて商船を狙わせたドイツ海軍とは対照的である。さらに、通常は偵察に使う飛行艇にまで、日本海軍は雷撃能力を付けている。 

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 画像は、潜水艦・陸上攻撃機飛行艇らに続いて巡洋艦駆逐艦が敵主力艦を仕留めようと襲い掛かったところを示したものである。米国の旧式戦艦4隻(砲撃力9・防御力8)に、軽巡洋艦天竜(砲雷撃力3・防御力3)が駆逐艦4隻を率いて肉薄しようとしている。狙いは距離5,000mくらいまで接近しての雷撃である。天竜以下の主砲(口径15cm以下)では、戦艦のぶ厚い装甲を傷つけることはできない。
 
 米国戦艦は副砲(口径13cm)でこれを追い払おうとするだろうし、護衛の駆逐艦4隻はその間に割って入ろうとする。米国駆逐艦を牽制したり、米国戦艦の主砲(口径36cm)を引き受けるのが、後方にいる日本の重巡洋艦4隻(砲雷撃力5・防御力4)である。20cm主砲で駆逐艦を撃ったり、場合によっては自ら戦艦に雷撃をかける。
 
 そして秘密兵器が左上にいる2隻の軽巡洋艦大井・北上(砲雷撃力4/8・防御力3)である。斜線の左は通常の砲撃力だが、右は戦艦に近い数値になっている。その意味は常識を超えた雷撃力である。1隻あたり40本もの魚雷を搭載しており、片舷20本を同時発射できる。
 
 例えば敵艦隊との遭遇初期に、敵主力艦の将来位置を予測して2隻で40本の魚雷を撃っておく。適当な時期に反転して残った40本を撃つ、というような戦術が考えられていた。80本の魚雷の10%が命中すれば8本、4隻に各2本当たれば4隻とも中破、戦闘力は激減する。2隻に各4本当たれば、2隻大破もしくは撃沈という計算になる。
 
 その混乱に乗じて、天竜以下の水雷戦隊が肉薄、とどめは重巡洋艦の雷撃・・・という次第。いかに装甲の厚い戦艦でも、喫水線の下は弱点である。魚雷は砲弾と違って、当たりさえすれば何らかの(時に重い)ダメージを与えられる。
 
 実際はご存知のように、この想定通りの海戦は発生しなかった。1940年には、新しいドクトリンが求められていたのである。
 
<初出:2016.7>