元側近の逮捕、有罪確定、司法取引などトランプ先生の足元を揺さぶる事態が次々に出てきているが、今すぐ「弾劾」できるほどの要素はまだないと思う。このあたり、米国メディアもやや大人げない報道ぶりだし、そこから情報を得ている日本メディアも現地の実態を十分把握しているとは言えない。
それでも数字は正直だ。このたびワシントンポストとABCニュースが実施した世論調査では、現政権の不支持率は60%に至った(前回4月には56%)という。弾劾手続きに入るべきだと言う人も49%とほぼ半数だが、入るべきでないという人も46%いて、この中には現状の「証拠」では弾劾は成立しないことを知っている人も含まれよう。
その一方で、トランプ先生を「救世主」とあがめる熱烈な支持者がいることも確かだ。昨年10月に登場した正体不明のネット投稿者「Q」は、過激な投稿でトランプ支持を呼び掛けている。その同調者が増えていて、アメリカ国旗の模様を「Q」の字にあてはめたTシャツを着た集団が演説会に登場している。
彼らによれば既存メディアは全て「フェイクニュース」なのだから、まともな議論などできない。かつてドイツのナチス党やイタリアのファシスト党の大会を思わせる、ファナティックな集会のようだ。画像はワシントンDCのマルティン・ルター教会だが、米国が「宗教的な病」に取りつかれてしまったのではないかと危惧する。
「救世主」は、攻撃されたり迫害されたりすると力を増す。批判勢力が強くなればなるほど、救世主側も強硬になりファナティックになっていくわけだ。「エコノミスト」の本に、「民主主義の敵のひとつは情報操作による(民意の)脆弱性」とありますが、それが如実に顕れたのが現在のアメリカ合衆国でしょう。
<初出:2018.9>