Cyber NINJA Archives

2016年からの旧ブログを整理・修正して収納します。

ソーシャルメディアでの反撃

 「結果には必ず原因がある」これは、天才物理学者湯川学准教授の口癖である。8年前の大統領選挙、初の黒人大統領を目指すオバマ候補は、クラウドファンディングに近い手法で選挙資金を集めるとともに、サイバー空間を使った得票予測を行った。これが、レーガン大統領のころ確立した共和党の集票・得票予想システムの精度を上回っていたのが、オバマ大統領誕生という結果の原因である。

 共和党のシステムは、基本的にヒューミントで成り立っていた。顔の見える地域ネットワークが、その基幹である。この土俵で戦っては、民主党に勝ち目は無かった。幸いにして民主党支持者にはIT関連の技術者や経営者が多い。彼らが献策したのが「顔は見えなくても、がっちりつながるネットワーク」だった。

 このネットワークは4年前にも活用され、今回も役者をオバマからヒラリーに換えて活動した。カリフォルニアなど先進的な企業関係者の、人脈・金脈・スキルはそのまま引き継がれていた。ヒラリーというとウォール街のイメージが強いが、ビル・クリントン大統領のころからハイテク企業群もクリントン家の有力な後援者だった。

 候補者としては民主党支持者から十分な支持を取り付けられなかったヒラリー候補ではあるが、恐らく上記のシステムはしっかり引き継いでいて、誰が共和党の候補者であろうとこのシステムに対抗できるものを用意しなくてはならなかった。

 トランプ候補は精緻な得票予測システムではなく、メディアによる露出効果を狙っていたのではないだろうか。それゆえ過激な発言を繰り返してメディアに取り上げさせ、不安になると「メディアが操作されている」と訴えたのだろう。まあ、それすらも計算ずくのメディア戦術だったのかもしれないが。


    f:id:nicky-akira:20190528062302p:plain


 既存メディアでは不十分だと考えたトランプ陣営は、ツィッターなどのソーシャルメディアを使って反撃に出た。平均的には「望ましくない候補」とされながらも、一部の熱狂的支持者のいる陣営の戦術としては利にかなっている。旧来のメディアは一方通行の一過性だが、ソーシャルメディアに投げた一言は熱狂的支持者によって幾重にも繰り返され増幅されて行く。双方向で反復性がある上に、放っておいても自己増殖してくれる。場合によっては大元が偽情報であったとしても、留めることは難しい。再三現れれば、多くの人がそれを信じるからだ。

 この流れはサイバー空間の中にだけ存在して、一般のアンケート調査等には現れにくい。多くの専門家が読みを誤る結果に終わった原因はここにある。フェイスブックのCEOなどが、ソーシャルメディア偽情報は極めて少なく選挙に影響を与えていないと述べているが、真偽はともかく選挙戦術としてのソーシャルメディアは、4年後もより大きな影響力を持つだろう。
 
<初出:2016.11>