Cyber NINJA Archives

2016年からの旧ブログを整理・修正して収納します。

沿線都市の憂鬱

 新しい交通路が開けると、新しい人や物の流れが生まれたり、流れが太くなったりしてその地域の経済効果が上がる。これは一般的には真実である。例えば首都圏を取り巻くように建設、ほぼ開通してきている「圏央道」について、横浜と筑波に同時期に出張し同じ様な期待の言葉を受けたことを覚えている。

 
 こういう環状道路と違ってピンポイントで2地点を結ぶような場合、例えば川崎と木更津を結ぶ「東京湾アクアライン」についてはその膨大な建設コスト以上に危惧を抱いていた人たちがいた。木更津周辺には、鋸山など景勝地もある。大きな人口を抱える川崎・横浜などから多くの観光客がやってくると普通の人たちは期待した。
 
 しかし一部の専門家は、逆に木更津周辺の人たちが横浜などに観光に行ってしまうのではないかと恐れた。結果は後者になったと聞く。物理学の世界で「浸透圧」というのがあるが、ある種の膜を通して濃度の濃い液体と薄い液体を触れ合わせると、濃度が平準化されるのではなく濃い方はより濃く、薄い方はより薄くなるという現象である。交通路はある種の「浸透膜」のようなもので、人口の多いほうがさらに人口を集めることを「サイフォン現象」とか「ストロー現象」という。

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 この何十年かで首都圏に人口が集中してくる日本の現象も、新幹線や高速道路、航空路という高速移動手段の発達と無縁ではない。それを最近再体験したのが中国高速鉄道の沿線都市たちである。

https://www.recordchina.co.jp/b625466-s0-c20-d0142.html 

 この記事によると、高速鉄道開業10年で沿線都市の58%で人口が減少、半数以上で成長率が省平均を下回り、相対的に貧乏になっている。沿線都市の住民の80%の可処分所得が減った路線もある。

 なにせケタの違う国で、現在稼動している世界中の高速鉄道の2/3(営業距離ベース)は中国にあるのだそうだ。先日中国の人と話していて「中国には2億人の高齢者もいるが、デジタル経済の従事者も1.7億人いる」と聞いてびっくりした。沿線都市の憂鬱問題も、日本からは想像できない規模で進んでいくのだろう。先に沿線の衰退を見た日本ですが、この友人に何がして上げられるのか分かりません。彼らとどう付き合うべきか、悩みどころですね。
 
<初出:2018.8>