世界でひとつのインターネット、どこでも誰でも同じサービスを受けられる・・・というのが僕たちの理想なのだが、この理想の障害となっているのがいくつかの国の「インターネットに国境を立てる行為」であることは、以前にも紹介した。
その代表格は中国、いつからか「Great Fire Wall」と称してインターネットによる国境を越える情報の流通を制限してきた。昨年からはサイバーセキュリティを言い訳に、実名でしかインターネットは使えなくなり、通信内容は政府が自由に検閲することが認められてしまった。自由世界のインターネットとは違う、もうひとつのインターネットと言ってもいいだろう。
日本の産業界は昔から、国境を越えるデータを保証しろと中国政府に求めていたがまるきり効果なし。それに怒ってか、日本も国境を閉ざせという極論を唱える人たちも現れた。その折問題例として挙げられたのが、中国版U-ber「滴滴」である。特に横浜・川崎エリアに多いともいうが、中国で運用されている配車アプリを日本でも適用して、羽田等に来日する中国人客の相当数がこれを利用しているらしい。もちろんドライバーは在日の中国人が中心。
極論の人たちは言う、「中国の配車アプリによって日本人を含む人の移動データは全部中国に持っていかれる。しかるに、日本には相応する中国からのデータは全くない。一方的に収奪されるだけである」と。確かにレシプロシティ(相互性)のない片務的な状態は望ましくないが、だからといって日本もインターネット鎖国をしていいはずはないだろうと僕は反論した。大体13億人のインターネットはそれなりに廻るだろうが、その1/10の規模で鎖国しては日常にも困る。「滴滴」は要するに白タクなので、そちらで取り締まるのがスジだと思っていたら、どうやら国交省や警察も動いてくれたようだ。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/53168
一部で取り締まり、追い払いをやったところで所詮モグラ叩きである。まずは実害を小さくすることからはじめ、そのうちに国際的なインターネット政策の議論をするべきだろう。オバマ政権のころには米国政府や産業界もこういうことに敏感だったが、今の政権ではデジタルやインターネットの議論が少なくなり「オールドエコノミー」の議論ばかりが目立つのが不安材料である。
<初出:2018.6>