森友問題、加計問題、財務省(含む大臣)の不始末、イラク派遣資料問題等々安倍政権への逆風は吹いているが、一方の野党も審議拒否に対する批判、分裂・再編などのゴタゴタがあって、「やっぱり秋の総裁選は安倍3選」との評価も出てきている。僕自身も実務的に評価できる政権だと思っているが、少し気になるのが「拉致問題」への対応である。
制裁が効いてきたのだろう北朝鮮が対話に乗り出してきたことで、長年懸案のこの問題に一筋の光明は見えてきた。日米首脳会談でもトランプ大統領が安倍首相への質問を奪う形で、「シンゾーにとって重要なテーマだから頑張る」趣旨の発言をしたし、日中韓首脳会談でも、この問題への言及があった。
この諸外国の対応に、僕は懸念を持つ。確かに拉致事件は非道な国家犯罪だし、被害者・親族の方は気の毒である。しかし、核をはじめとする大量破壊兵器問題とはレベルの違う問題である。シリアのグータ地区で化学兵器が使われた疑惑があるが、1日で全拉致被害者の数に相当する犠牲者が出る。だから、北朝鮮問題とはまずかの国に大量破壊兵器を使わせない、戦争をさせないというのが第一義である。そんなことは分かっていながら、トランプ政権は3人の朝鮮系米国人を解放させる「政治ショー」をやってみせた。そして同じようにしてやるとばかり、安倍政権に恩を売ろうとしている。
安倍総理は小泉内閣の官房副長官として小泉訪朝に同行、被害者の帰国に寄与した。だから被害者家族が頼るのもわかるのだが、彼はそれを政治利用して自民党内で存在感を増し、2度の政権を建てるまでになった。その政治利用は内政のうちは、僕も気にはしない。しかし今回は外国特に米国トランプ政権に逆利用されているのではないか。
先月の日米首脳会談の最初のテーマは北朝鮮を巡る安全保障、二番目のテーマは通商問題だったはずだ。鉄・アルミの関税に関して、日本も対象から外す交渉を期待していた企業もある。僕はTPP11への米国参加など保護主義に流れがちなトランプ先生に方向転換を迫ること(すぐ効果があるはずはないが)を期待した。そのようなことがあったかどうかは公開されていないが、もし「拉致問題への協力」が何かのディールに使われたとすれば問題だと思う。安倍政権にとって「拉致問題」が両刃の剣になりませんように。
<初出:2018.5>