個人で旅行していて、和食の店に入ることはまずない。しかし、出張で出かけるとなるとそうはいかないことがある。先方が「遠路来てくれてご苦労さん、和食が恋しいだろうから」と、連れて行ってくれるのを断るのは難しい。そこで遭遇するのは「なんちゃって和食」の公算が高い。
・ドイツ南部コンスタンツで、すき焼きと言われたが、おでんが出てきた。
などという話は一杯ある。それでも全世界的には和食ブームなようで、日本政府も和食のアピールに一役かっていて、普通の和食を出す店も増えている。
現地の日本人駐在員は、和食店にはめざとい。中には毎晩その店で食べているという、偏食のヤカラもいるようだ。それでも割高ではあるので偏食でない駐在員は、和食三昧ということはしない。
さて僕のように気弱そうな出張者がやってくると、彼らは「カモが来た」と勇むことになる。「いやいやご苦労様です。今夜は和食をご用意しました」といいだすことが多い。自分が食べたいのが動機だから、上記のように妙なものを食べることにはならないが、せっかく美食の街に来ているのに和食かよ、とは思う。
「いや、ありがとうございます。お気遣いいただいて・・・」などとお追従を言いながら、僕は飲み物くらいは現地のものを頼むささやかな抵抗をするのです。
<初出:2016.8>