Cyber NINJA Archives

2016年からの旧ブログを整理・修正して収納します。

月から見ることができるもの

 エジプトのピラミッド、長江・黄河を結ぶ大運河、万里の長城などは、月からも見ることができる「人類の文化遺産」である。21世紀になって、これに新しいモニュメントが加わることになったようだ。その名前を"Trump Wall" という。

 アメリカとメキシコの国境の全長は1,951マイル (3,141km)、20以上の横断道路があり世界で最も頻繁に横断される国境である。毎年のべ3億5000万人が、合法的に横断している。以前から不法入国や麻薬の密輸問題はあり、毎年100万人の不法入国があるとの統計もある。したがって、国境にカベをつくる議論は新しいものではない。

 実際に三重のフェンスを約2,000マイルに渡って建設する見積もりも、されたことがある。それによると、建設期間は6ヵ月、建設コストは最大30億ドルということだ。この費用メキシコ政府が払ってくれるとは到底思えないのだが、とりあえずは新しい公共事業ということでニューヨーク・ダウは区切りとなる2万ドルを越えた。

 聞くところによると、不法入国者リオグランデ川を渡ったり、ソノラ砂漠を越えたり、バボキバリ山を登って来るそうだ。厳しい環境条件なので、溺死・熱中症・低体温症などで命を落とすものもまれではない。幹線道路や都市に近いところでは監視の目があるので、人里離れたところが「入国銀座」になっているのだろう。

 アメリカ側の国境警備は当然あるのだが、再三の警備強化議論はあっても実効性のあるものになってはいないようだ。2006年にはブッシュ(子)大統領が最大6,000名の州兵の配備を決めたが、カリフォルニア州のシュワルツネッガー知事はこれを受け入れず、最終的に1,600名の配備に留めたりしている。

 

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 ドローンが音もなく国境上空に待機して、不法入国者を検知したところで警告を発し警備員を呼び寄せるというデモを見たことがある。物理的なカベを作るよりよほどスマートな解だと思うのだが、センサー・レーダー等の利用も含めた警備強化策がある法案に盛り込まれたものの、審議未了になっているらしい。

 不法入国は良くない。しかし、アメリカの産業がこれらの不法入国者の労働力に頼っていることも事実である。アメリカは農業大国だが、その労働力の45%は彼ら不法入国者が担っているとの統計もある。これが、本腰を入れた不法入国対策にならなかった真の原因だろう。

 トランプ大統領とその支持者たちはひとつ勘違いをしている。不法移民を一掃すれば「再び偉大なアメリカ」になるわけではない。あの時代には、不法移民の替わりに奴隷制度があった。まさか、オバマケア廃止に続いて奴隷制度復活でもさせる気ですかね。それとも、奴隷・不法移民の替わりにロボットでも使いますか?

 

<初出:2017.1>