Cyber NINJA Archives

2016年からの旧ブログを整理・修正して収納します。

完全雇用経済(米国編)

 トランプショックなのか、円安が急激に進んだ。ほぼ10日間で10円動いたのは、黒田バズーカ以来のことらしい。連動して日本株も上昇しているが、エコノミストによるとこれは単純に円安だからではないらしい。トランプ政策の一丁目一番地は、米国内雇用増である。だからどちらかといえばドル安に誘導し、財政を拡大させてもインフラ等への投資をすることになるはず。


 しかし米国国内の失業率は5%を割っている状態で、ほぼ完全雇用である。その状態でインフラ投資をしても国内での雇用ではなく、海外からの輸入が増えるだけだと、そのエコノミストは言う。増してや今の為替動向はドル高だ。米国の財政拡大の恩恵は、外国企業に降り注ぐことになる。この理屈、かつて日本が公共事業(=財政赤字)をやって中国などを利しただけだったことで証明済みだというのが彼の主張。外需が増えるのは日本企業に有利、ということで日本株が上がっているというのだ。

 

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 そもそも完全雇用に近い状態で、雇用増を目指すというのは無理がある。トランプ次期大統領に支持者が託したのは雇用の質の改善のはず。しかし質の改善は、企業の構造改革・被雇用者のスキルアップが求められ時間がかかる。それゆえ、目に見えた成果が欲しい政治家は「i-Phoneの工場を中国から米国に戻せ」ということを言い始める。

 しかも米国の「低技能労働者」市場は、不法を含む移民で充足させられてきたことも事実である。現にトランプ次期大統領の選挙中の発言によって、メキシコからの流入は激減している。屋根葺き事業者が人手不足に陥ったという記事が"Wall Street Journal" に載っている。

http://jp.wsj.com/articles/SB10316534201594473698304582457591874883480?google_editors_picks=true

 大統領戦の直後、カナダの移民局のサーバーにアクセスが集中してダウンしたという報道もあった。決して昨今話題のDDoS攻撃ではなく、米国にいられなくなることを恐れた極めて多くの人たちがカナダへの移住を考えたというわけ。経済は循環する生き物だ。米国経済が多くの移民の労働力に支えられている面や、グローバルなヒト・モノ・カネ・情報の流れの中で成り立っている面を忘れてはいけない。何かを急に断ち切れば、自らの首を絞めることになるのだから。

 

<初出:2016.11>