Cyber NINJA Archives

2016年からの旧ブログを整理・修正して収納します。

Gゼロの世界、再び

 プロの予想が通用しない世界になったようだ。多くの報道が「予想をくつがえしてトランプ候補当選」と伝えている。総得票数ではクリントン候補が上回っていたようで、多くの州で抗議のデモが起こっているらしい。

 
 6月のBrexitの時も、離脱に投票した人自身が「本当?」と言ったように、結果に世界が息を呑んでいる。類似のことが、アメリカでも起こったわけだ。大統領就任は来年の1/20、それから3ヵ月はハネムーン期間だから、おおむね日本のゴールデンウィークまでくらいアメリカ政治は眠りにつくことになろう。
 
 ハネムーン期間には、トランプ政権の今後を予想させるいろいろな事がおきるだろうが、今の時点ではどうなるか全くわからない。不透明性の帝王のようなものだ。ただ、これで、政治学者イアン・ブレマーが言う「Gゼロの世界」がやってきたことだけは明白になった。

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 第一次大戦後の世界も、疲れていた。欧州大陸では多くの若者が命を落とし、国土は荒廃していた。敗戦国であるドイツは、その上に高額な賠償金を負っている。ソ連も、革命とそれに続く粛清で暗い日々を送らざるを得なかった。主な参戦国で一番被害の少なかったアメリカにしても、国際連盟を提唱しながら自ら参加することはなかった。欧州(世界)に関わるのは、もうゴメンという世論が支配的になっていた。
 
 漁夫の利を得て国力を伸ばした日本も、決して安心できる状況ではなかった。1923年には関東大震災に見舞われ、他の天災も重なって地方の疲弊が顕著になってきた。さらにアメリカ発の大恐慌もあり、軍部の台頭につながってゆく。その結果は衆知の通りで、再び地球規模の大戦に突入し、人類は多くの犠牲を払った。
 
 欧州委員会(EU)は、単なる経済連携ではない。三度目の独仏戦争をさせないのが設立目的である。G7会合も、主要国の首脳が「顔見知りになって万一の暴発を防ぐ」ことが狙いと思ってもいい。G8になっていたが、ロシアのクリミア併合などに他国が反発、G7に戻っている。
 
 オバマ大統領も認めるように「もう、アメリカは世界の警察官ではない」。ブレマー氏の言う「Gゼロの世界」は、かつての1930年ころの世界に近いような気がする。保護主義が台頭しブロック経済に陥り市民に不満がたまると、行く先は不幸なことになる。トランプ次期大統領を含めて各国首脳には、ポピュリズムを乗り越える勇気をもってもらいたい。
 
<初出:2016.11>