映画館で映画を見なくなって久しい。近所のどこに映画館があるかさえ、考えたこともない。またレンタルビデオも、利用したことはない。TVで放映されるものも、NHK-BSでいくつか録画して見るくらいだ。映画業界に対して、全くと言っていいほど貢献していないNINJA家である。
今回の話題の映画「ダンケルク」は、ロンドンからの帰りのフライトで見た。CG全盛時代なのにこれをできるだけ使わず、40万人の将兵をフランスから救出するスペクタクル映画を作った話は聞いていた。1940年春、マジノ線を迂回し装甲師団や航空支援で電撃戦を仕掛けたドイツ軍は、ナポレオン以来の誇りを持つ大陸軍を打ち破った。
ロンメル将軍の第七装甲師団(神出鬼没ゆえ幽霊師団と噂された)らは、イギリス海峡に面した港町ダンケルクにイギリス軍の大陸派遣軍とフランス軍を追いつめた。反撃する力もなくなった英仏軍は、彼らが殲滅される前に将兵を一人でも救うことに注力せざるを得なくなった。
映画は史実に沿って、砂浜で救出を待つ陸軍、民間ヨットまで動員して救出に向かう海軍、上空で彼らを守る空軍の3者を交互に描いてゆく。戦闘機や爆撃機以外のドイツ軍は、登場しない。ドイツ兵の顔が映ることもない。徹底してイギリス軍人や協力する民間人を描いた、内省的ともいえる映像表現だ。
冒頭、陸の主人公が機関銃(MG-34かな?)に追いかけられ銃を捨てて逃げるシーンから、兵士を満載した哨戒艇が爆撃を受けて沈没するシーンまで、イギリス軍は一方的に叩かれる。
戦争映画といえば、戦闘シーンが売りなのが普通だが、この映画では戦って相手を倒すのは空軍のスピットファイアだけである。ドイツ機の直線的でゴツゴツした外観と違い、楕円形の優美な翼を持ったこの戦闘機は、当時連合軍で唯一ドイツ空軍に対抗できる機体だった。スピットファイアはチャーチルの命綱だったし、イギリス国民の魂とも言えよう。
映画の最後に、燃料が尽きプロペラが止まったまま海岸の砂浜上を滑空するスピットファイアの長いカットがある。クリストファー・ノーマン監督がこのシーンに込めたのは、この戦闘機の美しさにのせたイギリス人のスピリットだったように思いました。
<初出:2018.1>