映画「シン・ゴジラ」も、例によってフライトで見た。単なる怪獣映画ではなく、社会課題をえぐったものとして評価は高い。オリジナルのゴジラは1954年生まれ、僕よりも年上だ。子供のころ、夏休みの怪獣映画などで見た記憶がある。そのころは子供向けなので、コミカルなストーリーだったり宇宙人から地球を守る善玉だったりした。
しかしそもそもオリジナルのゴジラは、「反核」の象徴だった。1954年3月、南太平洋ビキニ環礁で何度目かの核実験があり、日本の第五福竜丸という漁船が被爆するという事件があった。初代ゴジラは「海底洞窟に棲むジュラ紀の怪獣が水爆実験に追われて出てきた」と推測されている。ジュラ紀かどうかはともかく、その姿は当時の考古学者が考えていたティラノサウスなどの肉食恐竜に近い。2足歩行だが、直立姿勢だ。もちろん着ぐるみを着る俳優さんへの配慮もあっただろう。
ところがアメリカで2014年に発表されたゴジラ映画では、2足歩行するイグアナのような姿になっていた。こちらの方が、最近考えられているティラノサウルスの姿に近い。ジュラシック・パークなどで御覧になった方も多いだろう。巨大なアゴに小さな前足、反対側には大きな尻尾。この2つを、腰の部分がシーソーの支点のように支えている。このスタイルなら、かなり早く走れただろう。
さて今回のシン・ゴジラ、着ぐるみでなく全編CGゆえ大胆な変身が可能になった。最初はウナギイヌのような姿で現れユーモラスな面も見せるが、再上陸した姿は相当恐ろしい。最近ビルがたくさん建った武蔵小杉を通過するシーンでも、高層ビルに負けない大きさだ。戦闘能力もすさまじい。口、背びれ、尻尾の先から白色レーザー光線のようなものを放ち、ビルや高速道路を切り刻む。攻撃ヘリのチェーンガンや対戦車ミサイル、戦車の主砲くらいでは傷も付けられない。
この映画の主題は、ゴジラに名を借りた「官僚の危機管理」物語だろう。前半は省庁縦割りや自衛隊の交戦規則、米軍との集団的自衛権など杓子定規な議論が飛び交う。しかし官邸が全滅してからは、立川の臨時行政府で若返った首脳陣が活躍を始める。情報共有・技術開発・資源の最適配分など内政はもちろん、外交までも一新してゴジラ退治を目指すわけだ。
少し話しがうますぎるような気もするが、革新には旧体制のドラスティックな破壊が必要だということだろう。
<初出:2016.10>