Cyber NINJA Archives

2016年からの旧ブログを整理・修正して収納します。

マイナンバーへの長い道(4)

 およそ10年前、僕は欧州各国の電子政府事情を調査するミッションに参加した。巡ったのは、デンマーク・ベルギー・EU政府・フランス・オーストリアだった。電子政府の進捗度は、政府に対する国民の信頼度と比例する。そしてそれは緯度とも比例するようだ。

 北欧の1国デンマークは、僕らから見ると極端なIT活用政策を採っていた。当然のように個人番号は導入されているし、請求書が紙でやってきたら、踏み倒してもかまわないと言われて、驚いた。通訳してくれた日本人女性に「本当か」と聞いてみた。彼女は自分ではPCを使えないので、民間企業あいての場合は、紙請求書も大目に見てくれると言った。でも今回のように政府の仕事(通訳は先方は用意してくれた)ではNGなので、そういう場合は「代書屋」を雇うのだという。
 
 一般の人たち相手に、あまねくIT活用・電子化強制というのはできないとあきらめていたが、なるほどこれなら可能だというヒントを得たシーンでもあった。ベルギーでも似たような状況。個人番号はいつ導入されたのか、と聞いたが返事が返ってこない。IT導入の時期は教えてくれたが、それ以前から番号そのものはあったという。

 次がフランス。ここはプライバシー保護が厳しい国。パリがかつての有名人が隠れ住める街であることは、以前にも書いた。財務省のエラそうな人が出てきて、個人番号は導入計画中だという。計画中の割には、導入すればこんな効果がある、こんないいことがあるとビジョンは大仰だ。

    f:id:nicky-akira:20190415074134j:plain


 あとで、ベルギーとフランスの違いについての仮説を思いついた。ベルギーで番号はナポレオン時代からある、と聞いたことがヒントになった。ナポレオンはフランスでは絶大な人気を誇っていた。徴税も兵の募集も比較的容易だったはずだ。しかし、占領地のベルギーではそうはいかない。個人番号は、強制的に税や兵役を課すためのツールだったのではなかろうか。

 最後に行ったのはオーストリア。ここは、かなり厳密な番号管理をして導入したばかり。アーキテクチャ的には、後年の日本のマイナンバー制度に近いものだ。なぜ厳密な管理が必要かは、政府担当者が答えてくれた。いわく「ここはドイツ第三帝国の一部だったところ。再びヒトラーが現れて、ユダヤ人で一定以上の資産のあるものはと簡単に検索できるようでは困る」とのこと。

 ビッグブラザーに対するトラウマがあるので、行政官が市民のデータ見たというログをとって、その理由や経緯を追求できるようにしているという。この時も、僕たちはオーストリア方式をベースに日本の番号制度を議論したらいいと考え、後にその方向で制度整備がすすむことになった。 
 
<続く>