Cyber NINJA Archives

2016年からの旧ブログを整理・修正して収納します。

サルが書いた特許

 昔、百万匹のサルとシェークスピアという話を聞いたことがある。非常に多い数のサルがキーボードをたたき続けるとシェークスピア作品を書くサルがでてくるというもの。実際には、サルがキーボードをそんなに長くたたけるのかという疑問が沸くが、これは比喩的な話。サルに例えられる乱数のようなもので、文章を書いたらどうなるかということである。


 確率論などを研究する学者の中には、これを学術的に取り組んだ人もいたらしい。ただ、多くの人にとってはこれはただの冗談だった。しかし、テクノロジの発展が冗談や笑い話を可能にしてきたという歴史もある。最近AI(人工知能)という言葉がよく耳にされるようになってきた。到底ありえないと思っていた、コンピュータが囲碁のプロに勝つという事態にも直面した。小説を書くコンピュータというものも報道されて、さあそれの著作権はどうするのだ、と議論になった。「サルの著作権」が現実味を帯びてきたわけだ。

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 著作権だけでなく、AIがビッグデータを使って生成したアルゴリズムやメソッドの特許はどうなるのかという議論もある。そう簡単に決着する話とは思えないので、しばらく議論、場合によっては議論のための議論が横行するだろう。ただ、僕は行き着く先は見えているように思う。

 20年ほど前に「ビジネスモデル特許」というのが流行ったことがある。特許といえば製品に関わるのが普通だが、当時から製造業の2.5次産業化とかサービス産業化は目標とされていて、これに対応した特許として注目されていたが、結論からいうと、20年経って大したことになってはいない。日本は比較的熱心らしいが、欧米では冷ややかに見られていると専門家は言う。AIベースの特許というものが出てきても、後にはこれと同じことになるのではないかと思う。
 
 特許というのは、自家薬篭中の秘伝を社会全体で活用するために導入された仕組みである。薬篭の所有者に一定のインセンティブを与えて秘伝を公開させることに意味がある。工業社会・大量生産社会の基礎となった制度である。さて、現代はと見ると「オープンイノベーション」という言葉が時代の先端である。いろいろな企業や個人が、オープンな場でおのおののリソースやアイデアをぶつけ合ってイノベーションを生むということである。一個人や一企業が単独で努力するより、進歩は格段に早くなると言われる。

 そんな時代に、「特許=秘伝を公開させる仕組み」というのがどういう意味を持つか悩んでいて、そろそろ特許というものも終焉する時期なのかなとも思ってしまう。
 
<初出:2016.6>