IT業界は、技術革新が他の産業にもまして激しい。学生時代含めて40年、ここで暮らしているとそれを実感する。ムーアの法則(集積回路上の論理素子の数は、1年半で2倍になる)は、半導体技術の成長の早さを示している。ただ、コンピュータは半導体だけでできているわけではなく、ソフトウェアの技術向上も含めてシステム全体として見ると、5年で10倍くらいの性能向上が妥当ではないかと思う。すると40年で、1億倍ということになる。
近代的なコンピュータ "ENIAC" が登場したのは1946年。もともとは、砲弾の弾道計算をする目的の機械だった。第二次大戦に間に合わなかった兵器のひとつ、と言えよう。それから70年近くたって登場した"iPhone6" と比較してみよう。
処理性能 :約4億倍 (300FLOPS ⇒ 115GFLOPS)
設置面積 :約1/17,000 (167平方メートル ⇒ 0.01平方メートル)
さて技術向上はいいのだが、これを市場として捉えると「5年で1/10」という恐ろしい数値が見えてくる。IT産業は新しい市場開拓をしなければ、5年で1/10になってしまうのだ。IT産業、特にこれをリードしてきた企業にとっては、市場開拓は技術開発と同様かそれ以上の宿命といえる。いくつか例を挙げておくが、これが技術開発以上に難しい。
◆コストが合わずITを使っていなかったという地域や業界なら機会はある。いずれ合うから。
◆使わなくても不自由していないという地域や業界には、いろいろ仮説を立て導入効果を説明する。
◆ITを使うスキルも体制もないという企業には、社員教育から運用受託までメニューを広げる。
◆紙文書での処理が規制で定められているなどの場合には、規制緩和を政界・官界に働きかける。
モノ売りからサービスへIT産業も変化しつつあるが、市場開拓を担ってこそデジタル産業界のリーダということに変わりはない。
<初出:2016.7>