アメリカがベトナムから撤退、ソ連がアフガニスタンで痛手を受け崩壊、「独裁者」サダム・フセインやカダフィ大佐もいなくなった。20世紀の終盤から、国と国が戦う戦争はほぼなくなり「Low Intensity Conflict」の時代になったというのが、歴史的な見方である。
それゆえ米軍はトランスフォーメーションと称して、正規軍の削減、特殊部隊の強化、1万人くらいの師団を2,000人ほどのCombat Groupへ再編を進めた。2,000人くらいなら輸送機を使って装備ごと迅速に運ぶことができる。戦略的な機動性が上がるのだ。ところが、来年の米軍の予算を見ると、この傾向に歯止めがかかっているのが分かる。
海軍 +4.9%
空軍 +1.2%
陸軍 +0.9%
海兵隊 -4.9%
この記事によると、全体予算の増加は主に新鋭の艦艇建造、高価な航空機の導入、ドローンなど新兵器の開発・性能向上に起因するという。では海兵隊の予算が減っているのはなぜか?要するに泥沼化したアフガニスタンなどから手を引き、大国間競争(即戦争ではなく)に備えるということだろう。また艦艇を増強して海兵隊を削減することは、この記事の言うように対中国シフトなのかもしれないが、海戦はするけれど着上陸作戦は限定しますもしくはしませんということだ。
グァムやハワイはともかく、沖縄へ中国軍が侵攻してきたらこの艦隊(「遼寧」などもいるだろうが)は叩く、しかし上陸してきた中国人民解放軍を海兵隊は逆上陸して奪還するということは将来的にはあきらめるという意思だろう。制海権は通商国家たる米国の生命線だから守る。けれど外地に領土的野心はもたないと言う事かもしれない。
米国は本来海洋国家、海軍へのシフトは正しいようにも見えるのだが、トランプ先生に一言申し上げたい。「海洋国家の防衛線は対岸の港の向こう側にある」ということを。老舗の海洋国家である英国はナポレオンやヒトラーが欧州大陸で暴れても最初は怒らなかったが、彼らが対岸の港の向こう側であるベネルクス3国に侵攻したときにキバを剥いた。これが海洋国家の国防の考え方です。
<初出:2018.10>