Cyber NINJA Archives

2016年からの旧ブログを整理・修正して収納します。

陸棲国家の海洋進出

 軍事の研究者の中で定説になっているのが、海洋国家と陸棲国家は両立しないということ。第二次欧州大戦を扱った戦略級ゲームの代表格「Third Reich」は僕の大好きなシミュレーションゲームだが、これをやってみるとその言葉が実感できる。大戦初期、フランス・ドイツ国境に注目が集まる。フランスもドイツも陸棲国家であり、多くの歩兵軍を国境に配備している。ドイツには艦隊コマは2つしかなく、フランスも3つしかない。

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 一方「海洋国家の防衛線は対岸の港の背中」に引くというセオリーから、イギリスはフランス北部(今ウワサの映画「ダンケルク」の舞台周辺)に2個程度の派遣軍を置いているだけだが、艦隊コマは6つも持っている。
 
 地中海にいくつかは派遣せざるを得ないとしても、6+3で9個の艦隊を相手にしてはいかに優秀なドイツ艦隊(戦艦ビスマルク巡洋戦艦)でも太刀打ちできない。ドイツ海軍は「Fleet in Being」戦略をとるので、当然ながら陸戦が主体になる。

 結果は、数だけは多いが近代化が遅れ機甲軍も少ないフランス軍が敗れ、イギリス軍もたいした働きはできなかった。敗残部隊はダンケルクから、漁船やヨットまで動員してイギリスに逃れた。勝利を手にしたドイツ軍だが、残る主敵であるイギリスに攻め込むには制海権が必須で、これは海軍力の差で不可能だった。いかに狭くても海を越えて海洋国家に進撃するのは、陸棲国家には難しかった。ドイツ軍は矛先を変えてもうひとつの大陸棲国家であるソ連に挑むことになる。

 現在でも、フランス・ドイツ・ロシアは陸棲国家であり、イギリス・日本・アメリカは海洋国家である。新興の大国中国は、どう考えても陸棲国家だ。それが、海空軍の戦力増強に積極的になってきている。

http://wedge.ismedia.jp/articles/-/10480

 この記事では、陸は海より重要だという伝統は捨てなければいけないとまで述べている。確かに南シナ海の海洋開発、国産空母の進水、爆撃機隊を日本に飛ばすなど、このところの中国の「海洋進出」は激しい。経済成長もあって、軍事費の伸びも大きく、軍隊は近代化されようとしている。しかし、これまでの定説から言えば、陸棲国家の中国が海洋に入れ込んだときは危機を招くのである。例えば、第一次世界大戦のドイツはシェットランド沖海戦に敗れ降伏への道を歩んだし、ロシアは日本海海戦満州を失った。両帝国はその後政治体制の激変に見舞われる。

 迷彩服姿の習主席には驚いたが、中国が海洋国家と陸棲国家を兼ねる最初の覇者になるのか、注目しています。
 
<初出:2017.9>