Cyber NINJA Archives

2016年からの旧ブログを整理・修正して収納します。

鉄のくじら

 呉市大和ミュージアムのすぐ前に「鉄のくじら館」という博物館がある。海上自衛隊を退役した潜水艦「あきしお」が、そのまま飾られている。まさに陸に上がった鉄鯨である。1986年に就役した2,200トン級ゆうしお型7番艦で、2004年まで実戦配備されていた。     

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 司令室含めたいくつかの部屋・通路を巡ることができ、潜望鏡も稼働している。僕も操舵席に座ったり、潜望鏡をのぞいてみたりした。ゆうしお型の後、はるしお型・おやしお型を経由して、現在最新鋭の通常動力潜水艦は「そうりゅう型」となっている。そうりゅう型は基準排水量2,900トン、ゆうしお型から徐々に大きくなってきている。
 
 オーストラリア海軍が日本の潜水艦を導入するかもしれない、と言われたのはこのそうりゅう型のことである。最初の「防衛装備品移転」の成果となるかと思われたが、結果はうまくいかなかった。それでも、世界で最高級の通常動力潜水艦であるとの評価は変わっていない。
 
 第二次大戦中、狭い北大西洋であっても作戦行動ができたUボートは、保有量の1/3程度であった。1/3は作戦区域との往復路にあり、残り1/3は港で整備・修理中だったからだ。その点、原子力潜水艦原子力で動力を得るので、長期間補給が無くても作戦行動をとることができる。冷戦時代、各国が競って原子力潜水艦を開発・配備した理由はそこにある。

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 ただ、原子力潜水艦の難点は音が大きいこと。静かにしているつもりでも、原子炉を冷やす冷却ポンプなどは動かさなくてはならない。その点、通常動力潜水艦は潜航時は電池駆動なので、静粛性は高い。もちろん、艦長は常に電池残量に気を配らなくてはならないが、潜水艦の取柄は隠密性にある。見つかってしまえば、いかに強力でも末路は見えている。
 
 軍機(古い言葉だ!)なので、詳しいことは報道されないが、そうりゅう型の静粛性とセンサー性能は卓越しているらしい。優れているなら「世界中に売りたい」というのが、当たり前の話。ただ、長く戦後日本に浸透していた「武器輸出三原則」からは議論を呼ぶところだ。そこで、政府は2014年に「防衛装備品移転三原則」に改めるとした。文字を置き換えただけであるが・・・恐るべし日本の官僚の語彙力。
 
<初出:2016.8>