20余年前ドイツ人と仕事をする羽目になり、初めて渡独したのは4月もまだ早いころ。緯度としてはサハリンくらいのところなのだが、桜咲く日本よりやや寒い程度の気候にほっとした。よくわけのわからない会議を終えて、ディナーに行こうということになった。慣れないところ(&仕事)では、まずは息のつける時間だ。
最初の夜は、スペイン料理店に行った。コメが食べたくなり、パエリアを注文した。次の夜、名物を食べさせてやると言われて、のこのこドイツ人に付いていった。前夜の経験で、小麦ビールがおいしいことを舌が覚えてしまい、それなしでは眠れなくなっていた。
メインディッシュは名物だと言って、何かは教えてくれない。それでも、一緒に来たドイツ人がみんな嬉しそうな顔をしているので、きっとうまいだろうと思っていた。前菜のサラダ(これだってどんぶり一杯ある)をつまみながらビールを2杯。その後白ワインにして、メインディッシュを待った。川魚かな、チキンかな、ウサギみたいなものかな・・・で出てきたのは、10本の白い筒っぽ。
白いフレンチドレッシング様のものが、全体にかかっている。これが "SPARGEL" アスパラガスである。緑でしゃきしゃきしたそれではなく、白くややブヨブヨしている。ドイツ人はたちまちむしゃぶりつくが、日本人はけげんな顔でフォークの先でそれをつついている。これって、メインディッシュだっけ?サラダの続きじゃないかと思った。
白いけれど、これも緑のと同じ。ただ、土などをかぶせて日光にあてないと白くなる。日本の根深ネギのようなものらしく、手間がかかるので当然値段も高くなる。4月には南といえドイツでは採れない。これはスペイン産。5月になるとフランス産が出回り、6月には国内産が食べられる。
ドイツ人にとっては春を告げる食材で、これを食べないと本当の春が来ないと思っているらしい。まあ江戸っ子にとっての「初鰹」のようなものだろう。昨年6月、ウィーンのナッシュマルクトで「国内産の白アスパラ」を見つけた。これだけ並んでいると壮観ですな。
<初出:2016.7>