2020年に現状の品川・田町駅間に、新しい駅が開業する。山手線の新駅としては1971年の西日暮里駅以来というから、非常にエポックメーキングな話。東海道新幹線と建設が始まったリニア新幹線にほぼすべての経営資源を投入し回収を期待しているJR東海と異なり、JR東日本は鉄道事業だけではなく不動産業・ホテル業・小売業などにも手を広げている。どちらも置かれている状況から考えて、妥当な経営戦略だと思う。
品川・田町間は確かに普通の駅間より長い。慶應の三田キャンパスに用があったとき、品川からわざわざ乗り換えるのが面倒で「どうせ一駅未満」と田町近郊まで歩いたら、意外と遠くて会合に遅れそうになった。その時、京急「泉岳寺」駅の前を通ったが、品川・泉岳寺間で一駅の感覚だった。新駅も、(駅名はともかく)泉岳寺近辺に置かれるという。
不動産業のJR東日本としては、品川から田町にかけての操車場などの跡地が商業施設にバケてくれるので万々歳に違いない。これを見込んで、東海道線と東北・高崎線を直接接続する「上野・東京ライン」を作ったともいう。汐留や丸の内の再開発にひとわたりのメドが立ち、今度は品川の本格開発というわけだろう。
30年以上前の品川は、山手線の中でも地味な駅だったと記憶している。まだ新幹線の駅もなく、京浜東北線と山手線が分かれるところくらいの感じだった。海側には倉庫が立ち並び、ドコモなどNTTグループのビルが建ち始めたくらいで、繁華街という気配は無かった。第一、羽田空港に向かうモノレールは品川駅の東側の海上を通るくらいで、交通の要衝などにはなりえなかった。羽田に行くなら、大井町・大森や蒲田の方がずっと便利だった。
今回の新駅開発は、単純に駅がひとつ増えるというものではない。羽田空港に近くリニア始発駅でもある品川が「副都心」としての機能を整備する大きな一歩であろう。
最後に余談をひとつ。かつて新幹線駅も上野・東京ラインもなかった時代、面白いアリバイ工作ができた。蒲田方面から京浜東北に乗って品川に着くとする。そこで仲間と別れた男が山手線の内回りへと階段を上ってゆく。お仲間はそのまま田町駅に向かうが、京浜東北の大宮方面列車は陸橋を渡って「車線変更」するため、少し遅くなる。その間に山手線に乗り換えた男は、田町駅に先回りしてさっき降りた列車をホームで待っている。
品川で降りた彼には、その列車に再び乗れないという先入観を皆が持っている。そこで仲間たちが降りていくのを隣の車両でじっと待っている。最後にいずこかの駅で一人になった目標を刺殺する、というもの。途中で列車を降りた仲間たちは、最初に降りた彼をつゆ疑わずそう証言するので容疑者と警察は考えない。新駅開業のあと、このアリバイ工作は可能なのでしょうか?
<初出:2017.3>