Cyber NINJA Archives

2016年からの旧ブログを整理・修正して収納します。

議会主権の国

 "Brexit" に新しい難題が持ち上がった。「政府は、議会の同意なしにEU側に離脱通告する権利を持たない」との訴訟で、最高裁判所が判断を下すことになったのだ。裁判所が仮にこの訴えを認めれば、メイ首相は議会に本件を同意するよう求めなくてはならない。議員そのものは70%が離脱反対(メイ首相も離脱には反対)であり、同意するかどうかは微妙だ。

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 微妙と言ったのは、国民投票の結果が離脱と出ている以上議会が「民意を無視して離脱交渉開始を阻止」するようなことは躊躇するかもしれないからだ。とはいえ離脱反対のデモも起きているし、離脱に投票しながら「え、本当?」と言っている有権者もいるようで、事態はますます不透明になってくる。

 民主主義発祥の地かと思われた英国ではあるが、フランス革命は人民によるものだがマグナ・カルタは貴族が国王に呑ませたもの。フランスは国民主権だが、英国は貴族主権であり今では「議会主権」だという外務省関係者もいる。そうだとすると、上記訴訟は国民主権に見せかけながら実権を握ってきた議会が、いよいよ表舞台に出ざるをえなくなったということかもしれない。

 
 離脱後のEUとの貿易がはどうなるのか不透明なので、金融業界はじめ産業界はいろいろな対策を考え始めている。物理的な設備が少ない投資銀行などは、比較的簡単にフランクフルトなどに移転できる。もともと外国資本が多い「シティ」の金融機関は、ロンドンにうまみがないと見れば、さっさと出て行く。

 設備投資や人的投資をしてしまった製造業でも、あまり関税などでいじめられれば移転を決断する。先ごろ日産がサンダーランドの工場に投資を追加する条件として英国政府に関税等で被った不利益を補償することを求めて話題になった。日産は"Soft Brexit" などありえないと思ったのかもしれない。恐らく多くの企業経営者が、そういう危惧を持っているだろう。

 今のところは、日産は投資を続ける姿勢であって補償交渉が成功したのかと思った。しかし、英国政府は「補償の約束などしていない」と述べていて、またぞろイスラエル建国にまつわる二枚舌芸でも持ち出したのかもしれない。

 経営コンサルタント大前研一氏はトランプ次期大統領の反グローバリズム政策について、悪性インフレをもたらし米国のためにならないと警告している。同じことが英国にも言えるかもしれない。この2世紀ばかり世界をリードしてきた両国が、大きく揺れている。まさにGゼロの世界だ。
 
<初出:2016.12>