Cyber NINJA Archives

2016年からの旧ブログを整理・修正して収納します。

サムスンの統治機構

 事実上のTOP逮捕によって、巨大グループサムスンが揺れている。先月末には「未来戦略室」を廃止、グループ企業の経営の自立性を強めるという経営刷新策を公表した。

http://www.yomiuri.co.jp/economy/20170228-OYT1T50081.html

 この未来戦略室という組織、よくも悪くもサムスンという企業グループを支えてきた組織である。10年ほど前、サムスンの強さを調べた研究者と話したことがある。僕が印象深く覚えているのは半導体事業の急成長だが、他の産業分野でも強さを見せつけていた頃のことである。半導体は技術主導の産業ではあるが、決定的なのは設備投資である。巨大なカネを素早く決断して投入する、証券取引の世界でよく言われる「相場はデカく、素早く」がぴったりの世界だ。

 先代の李会長は(当時は未来戦略室という名前ではなかったが)直下の組織を使って情報を集め、自ら素早く決断する。このスピードに、半導体先進国である日米の企業は追随できなかった。巨大グループを完璧にガバナンスしていた李会長のスタッフ組織が、後年未来戦略室と呼ばれて現在の李副会長にも仕えていたわけである。

 この組織、実はスタッフという法を越えている。予算や人事権を持っているので、事実上の経営会議のようなものだ。ある事業を担当している「スタッフ」は、その事業の責任者と同等程度の権限を持っている。李会長の意向に当該事業部門長が従わなければ、そのクビを飛ばし(You are FIRED!)自ら事業部門長となって赴任するのである。
 

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 この話を研究者から聞いて、李(先代)会長は単なるオーナー経営者を越えた統治機構と権限を持っていると理解した。今回この統治機構はオーナーが不在になったので不要になった、というより別の誰かに使われたらむしろ危険になったので廃止したと思われる。これから各事業部門は中央の干渉におびえたり指示に服従する必要はなくなるのだが、自ら考え行動することが求められる。その訓練ができている部門長が、どれだけいるのだろうか?場合によってはケダモノファンドあたりの草刈場になってしまうのではなかろうか?しばらく、このグループには注目しておくべきでしょうね。

 

<初出:2017.3>