一方中小企業となると人材の確保は、当面する深刻な死活問題である。有能な技術者や営業マンが欠けたりすれば、経営そのものが傾きかねない。できる人材には過度な負荷がかかり、健康を損ねるケースもあろう。「働き方改革」などと言われても、背に腹はかえられないという怨嗟の声が聞こえそうだ。大企業では歩留まりだと考えて何人かの人材を死蔵しているし、中小企業ではその1人がいないことで明日の注文がとれないという不公平がある。
だから今回の各社の希望退職を募る動きなどは、このような人材の偏在を是正するきっかけになる可能性はある。しかし問題は「大企業で死蔵されていた人が、中小企業で活躍できるか」にある。もちろん活躍する人もいるし、そうでない人もいる。たとえ1人でも活躍してくれればいいではないか、という極論もあるかもしれないが、それは無責任というものだろう。
まだ30歳台のころ、同期の総務屋と呑んでいて大企業から中小企業への転職の話をした。彼は定年が近い技術者を、非系列の中小企業へ紹介/転職させる仕事をしていた。曰く「総務屋はどんな企業でも基本業務は同じだ。だから(中小企業への)転職といっても給与が減る以外の心配はない」のだが、技術者はそうはいかないのだという。
技術者が長年培って来たノウハウはこの会社のこの部署のこの種の機器開発に使えるのであって、環境が大きく違うと役に立たないのだという。受け取った企業は「大企業の人間は役に立たない」と思うし、技術者は「ここは俺の居場所ではない」というミスマッチを起こしてしまうわけだ。
社内転職は何度も経験した僕だが、本当の中小企業現場で働いた経験はない。だからえらそうなことは言えないのだが、転職前のマッチング調査を綿密にやり、時間をかけた移籍をする仕組みがいるように思う。もちろん、移籍する人も過去を引きずらないことは必要なのだけど。
<初出:2018.2>