銀行そのものは電子マネーには冷静(というか冷淡)だったが、金融業界の重鎮には電子マネーに期待を寄せていた人もいた。彼らは日本の銀行が金融の本質から離れて「金融雑務」に堕するのではないか、との危機感をもっていたようだ。実際銀行のバックヤードに入ってみると、ビール券を数えていたり、税公金伝票の束に埋もれていたり、コインを機械に入れるなどの作業が多いのに驚く。
伝票などは電子化すればいい(それも現実には一杯残っている)が、現金だけはどうにもならない。痛んだコインは取り替えなくてはいけないし、紙幣もくたびれたのは取り除くことになる。こういう物理的な作業をどうやって減らすかと言えば、電子マネーが一番可能性がある。
スマートフォンがない時代電子マネーを持ち歩こうとすれば、媒体はICカードが一番好適である。もちろん「お金」を扱うので、セキュリティ性には気をつかう。一般にセキュリティ性と利便性は相反関係にあるから、開発者の間で「使いやすくかつ安全」をどの線で折り合うかの激論が続いた。
伝票などは電子化すればいい(それも現実には一杯残っている)が、現金だけはどうにもならない。痛んだコインは取り替えなくてはいけないし、紙幣もくたびれたのは取り除くことになる。こういう物理的な作業をどうやって減らすかと言えば、電子マネーが一番可能性がある。
スマートフォンがない時代電子マネーを持ち歩こうとすれば、媒体はICカードが一番好適である。もちろん「お金」を扱うので、セキュリティ性には気をつかう。一般にセキュリティ性と利便性は相反関係にあるから、開発者の間で「使いやすくかつ安全」をどの線で折り合うかの激論が続いた。
電子マネーもいろいろトライアルが行われたが、決定打になったのはJRが導入した「Suica」である。金融とは全く違う業界での普及となった。Suicaは、基本的には切符である。改札の自動化による人件費削減、紙切符廃止による環境負荷低減などメリットが謳われたが、最大の効果は「キセル防止」だったのではないかと思う。
八王子から東京まで通うのに、八王子・立川間の定期と東京・新宿間の定期を買っておいて立川・新宿間を不正乗車するというようなことを、両端だけ金属なのでキセルになぞらえたもの。最近は本物のキセルも見かけることが無くなった、「伝説の犯罪」である。この手はSuicaに改札口通過記録が残るため、使えなくなった。
2000年代後半になると、イオンなど流通系企業も参入して電子マネーは普及期を迎える。老舗のSuicaも、いろいろな店で支払いができるようになり、多くの人の財布に不可欠なものになった。有村特許から実に40年、技術が社会実装されるまでには、長い時間を要する例と言えるだろう。
<初出:2016.8>