Cyber NINJA Archives

2016年からの旧ブログを整理・修正して収納します。

防衛省からの研究予算

 文科省の大学等に対する研究予算がシフト(例:基礎研究から応用研究、社会実装)していて、研究室として存亡の危機にあるものもあること、そのような研究室では若手研究者を十分処遇・育成できなくなっていることは以前にも紹介した。

 そうなると、大学等として文科省以外のスポンサーを探そうとするのは当然だろう。ICT関連だと総務省は独自の予算をもっているし研究機関(NICT情報通信研究機構)も持っている。経産省にもエネルギーやIT関連の予算・研究機関(NEDO:新エネルギー開発機構、IPA情報処理推進機構)がある。さらに2~3年前「新しい大物スポンサー」が名乗りを挙げた。

 それは「防衛省」である。将来の防衛装備品開発に関し民間の力を借りたい、逆に言うと民間で装備品関連研究をしてくださいねということ。例によって官僚のレトリックであるが、装備品とは軍備のことであって求められるのは軍事研究である。大学等にとっては非常に魅力的な話ではある。しかし、これには根強い反対論もある。

 日本の学界の最高峰「日本学術会議」では、過去の戦争協力への反省から「軍事研究はしない」と宣言してきた。このたびこの会議が出した結論も「防衛省の研究公募は、政府の介入が著しく、問題が多い」として、各大学に応募にあたって妥当性の審査をするように求めた。

http://jp.reuters.com/article/idJP2017030701001470?il=0

 慎重な姿勢は変わらなかったということだが、この声明には強制力はなく応募を禁止することまではできない。防衛省も大人なので「国内で研究してくれないなら、海外の研究機関に頼みますよ」などとは言わないだろうが、大学・研究室の今後の出方が注目される。

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 IT屋として「日本学術会議」の先生方にお願いしたいのは、サイバーセキュリティ研究に関してはこの声明の例外事項にしてくれること。重要インフラや政府中枢へのサイバー攻撃は、事実上安全保障の一部である。防衛省(だけではないが)のサイバーセキュリティ研究には、民間企業や大学等は積極的に協力すべきだろう。技術の進歩によって、ひとつのマルウェア大量破壊兵器並みの被害をもたらすことも考えられるのだから。

 

<初出:2017.3>