1時間あまりの苦闘が終わり、何人かの関係者とパネルディスカッションの内容に関する個別の会話を終われば、あとは他のセッションを聞く一人の聴衆にすぎない。多少の脱力感を感じながら、余計なことを言わなかったか、でたらめな文法なので誤解されなかったかを危惧する。
煉言汗のごとしといって、為政者の言葉は取り返しがつかないことを例えているが、そんな偉い人でなくても失言や暴言は取り戻せない。まあ、終わったことは仕方がないとわりきるだけだ。そうこうしているうちに会議の終る時間がやって来て、再び「護送バス」に乗せられて市街地のホテルに戻った。肩の荷が下りたせいか、帰路は早く感じる。
スーツを脱いでシャワーを浴びると、午後8時過ぎだった。ランチは立食で、しかもパネルの進行打ち合わせをしながらだったので、ろくに食べていない。急にお腹が空いてきた。帰りのバスの中でホテル付近のレストランは検索しておいたのだが、わざわざ出かける気力がない。結局、ホテルの朝食を食べたレストランに行くことにした。
宿泊客中心のようだが7~8組が食事をしていて、隅の小さなテーブルに案内された。メニューはシンプルで、前菜7~8種類、パスタ/ピザ6~7種類、魚料理・肉料理が各4種類。まずワインを飲もうと、ピエモンテ州の有名なバローロかトスカーナのキアンティを頼もうとした。
すると店の親父が「そんなものより、地ワインでいいのがあるぜ。みんなそれを呑んでいる」という。少し考えてじゃあと頼んだら、グラスに結構たくさん注いでくれた。山盛りのパンにハーブバターを付けて合わせてみると、なかなかいける。
ちびちびやっているうちに、前菜がやってきた。以前フィレンツェで食べて「神のサラダ」と思った、トマト・モッツアレラにバジルを添えたもの。黒い線は、バルサミコである。見た目にも凝っていて、色どりはイタリアの国旗の3色である。
味はフィレンツェのレストランには及ばなかったが、もちろん合格点。そのうちにグラスが空いたので、1杯追加を頼む。やってきた2皿目は、ニョッキを6種類のチーズソースでからめたもの。普通、パセリなり何か緑色のものをみじん切りにして振りかけたりするのだが、ここではのっぺらぼうで出てきた。
ゴルゴンゾーラ系の何かが入っていたのは確かで、ソースは奥深い味わい。ニョッキの歯ごたえも良くて、満足だったが問題は量。見た目より皿の深さもあって、胃にもたれはじめた。いくらランチが少なかったからと言って、この2日間の激務と自分のトシを考えればこのあたりで切り上げた方が良さそうだ。
地ワインはたっぷりグラスに2杯で、€10。2皿とも€11で、合計€32には税金もサービス料も込みだった。シンプルな地元の食堂のような雰囲気のレストランだけれど、十分満足できた。帰るとき、地ワインを誉めたら、親父はうれしそうでしたよ。無理にバローロ頼まなくて、良かったです。
<初出:2017.10>