Cyber NINJA Archives

2016年からの旧ブログを整理・修正して収納します。

理想の国家を求めた反動(前編)

 昨年は世界中の国々で、思いがけないことが多発した。それも先進国と呼ばれる国がその先頭に立って、EUからの離脱を決めたり政治経験ゼロの大統領を選んだりしている。特にシリアなどからの難民流入に揺れるEU諸国では極右政党の台頭が目立ち、すでに揺らいでいるユーロの立場を含めて今年は厳しい政権運営・経済運営になるだろう。

 
 第一次・第二次の欧州大戦で大きなキズを負った欧州諸国。三度目はしないぞと、経済連携を進め政治的・通貨的な統合を進めてきた。まずは欧州全域でのことだが、国家もひとつに経済圏もひとつにする壮大な実験が行われている。それが政治体制としてのEUであり、統一通貨ユーロだった。
 
 一昨年日欧の政府間交渉に参加した時、欧州委員会は"Digital Single Market" という考え方と計画を出してきて、非常に興味を持った。すでにシェンゲン条約でヒト・モノ・カネの自由な流通が保証されている欧州だが、デジタルデータとしては一貫した流通はしていない。

    f:id:nicky-akira:20190502214551j:plain

 各国のデータフォーマットやID体系は当然違うし、デジタルコンテンツについての著作権法も違う。まだまだ「統一すべきこと」は一杯あって、特にインターネット空間にはそれが多いという。
 
 僕たちは"Digital TPP" を標榜しているくらいだから、一歩先を行く欧州諸国の取り組みを注目していた。昨年末、その進捗を聞いたのだが停滞しているわけではないようだ。ただこの手の話は、計画の初期段階ではうまくいっているように見えることが多いから全面的に信用できるわけではない。
 
 問題はEU委員会のこのような努力とは違う次元で起こっているように思う。理想の統一国家そのものが揺らいでいるように思うからだ。"Brexit" もトランプ現象も、グローバル化の進捗が速すぎて広がった格差への「庶民の怒り」が発露したものだという。イギリスもアメリカもグローバリズムの本家のような国だし、そこでこのような声が上がったことに驚かされる。危惧するのは、理想(グローバル化)を求めたあまりの反動が、より大きな力でハネ返ってくることだ。
 
<続く>