Cyber NINJA Archives

2016年からの旧ブログを整理・修正して収納します。

アラブの海に浮かぶ国(後編)

 次に同じ様な話があったのは1990年代半ば、モバイルPCをより軽く使いやすくしようとしていた頃のことである。狙いは今で言うタブレットのようなものなのだが、文字入力用デバイスをどうするか悩んでいた。フルキーボードは大きすぎる。ブラックベリーのようなミニチュアキーボード(ボードじゃないよね)は使い勝手が悪い。画面にキーボードを映し出す「ソフトキーボード」は画面に張るセンサーの性能が安定しない。

 そんな時、イスラエルの企業が「空間キーボード」というのを持ってきた。立てかけた画面の上部からレーザー光を出して、画面の手前にキーの線画を書く。キーボードの絵が、手前にレーザー光で書かれるわけ。操作者は、描かれたキーに指を伸ばしてキーを叩く動作をする。その指の動きをセンサーが検知して、キー入力に変換する。

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 これも導入することは無かったが、どうしてこんなもの作ったのかと聞いてみた。このころどの先進国でも軍の近代化が進んでいて、IT導入は当然だった。しかし、前線の歩兵にPCを持たせるのは難しい。食料・水・着替え・スコップ等の工具・防弾ベスト・ライト・ナイフ・ライフル・弾倉・手榴弾等々すでに持ちきれない装備を持って歩いている。少しでも重量を減らすためにキーボードは邪魔である。そこで、行軍する兵士のためにこういうキーボードを開発したらしい。

 さて現代であるが国民の技術水準が高いことから、多くのハイテク企業が研究開発拠点やデータセンターをイスラエルに置いていると紹介があった。サイバーセキュリティの能力についても紹介はあったが、そもそも本当のところまで紹介するはずもないことなので、通り一遍の話である。ただこれまで書いてきたように、実践に鍛えられた技術であるだろうから日本としては興味をそそられる。

 すでに国家安全保障のレベルに達した「サイバー攻撃の脅威」を考えると、日本の技術や対応能力には疑問がある。単純な話、マルウェア(ウィルス等の悪さをするプログラム)を研究目的で作っても、罪に問われる可能性があるのが日本の法制。これでは、実際に近い演習をやろうとしても腰が引ける。

 また攻撃を受けたとき、攻撃元を特定できたとするなら「反撃」したいのが自然なこと。海外からの攻撃だったら「専守防衛憲法9条」のもとで、反撃していいかどうかもわからない。このあたりの実践議論や訓練、想定ケーススタディをするとしたら米国のほかに、この国もパートナたる可能性があるのではないだろうか。

 

<初出:2016.11>