Cyber NINJA Archives

2016年からの旧ブログを整理・修正して収納します。

人類滅亡まで2.5分

 本当に久しぶりに「終末時計」という言葉を聞いた。僕が子供の頃は多くの戦争経験者がいて話を聞かせてくれたし、冷戦構造だったので核戦争の脅威が社会を覆っていた。映画化もされたネビル・シュート渚にて」や小松左京復活の日」を読んで、人類滅亡ってこういうことかと妙な納得をしていた記憶がある。

 米ソ間に緊張が走り核戦争の可能性が見え隠れしてくると、終末時計が少し進む。後年は温室効果ガス排出が増えているというので、やはり時計が進む。そういう頃を、今回の報道で思い出してしまった。先進各国で極右政党などが台頭して、しばらく前に残り3分に進められていたのだが、今回はトランプ効果(?)で30秒進んだという。

 これまで残り時間が最短になったのは、米ソ両国が核兵器を手ににらみ合った1953年の「残り2分」。両国をはじめ核保有各国が核兵器を量産・配備し、これらが発射されたら「人類最後の日」がくるかもしれないとの危機感が最も高まった時期である。広島・長崎に投下されたのは今にして思うと小型の核爆弾だが、それでもひとつの都市を壊滅させる効果があった。

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 20世紀の2つの世界大戦は、従来と異なり最前線だけでなく国そのものへの攻撃という手段が採られた。ロンドンやベルリン、東京への無差別爆撃、ライン川のダムの破壊などに続き核兵器が使用されたわけだ。それでは何故各国が核兵器を開発・量産・配備したかというと、実は経済原則に則っている。相手国にある種のダメージを与えるのに、核兵器が一番コストパフォーマンスがいいのである。その結果、地球を何十回も壊せるほどの核兵器を人類は保有してしまった。

 こうなると、実はこの兵器は使えない。相互確証破壊(MAD:Mutual Assured Destruction)と言われる状況になり、狭い部屋の中で誰の持っている爆弾が破裂しても「みんな死ぬよね」というようなものである。またゲリラ戦のように、紛争の相手が国という単位で無くなるLIC(Low Intensity Conflict)も増えてきたが、こういう相手には核兵器は効率的な手段ではない。以上の理由で、十分すぎるほど持っている国としては核軍縮の方向に向かっている。何しろ、使えないのに維持費が高いのだ。

 トランプ大統領は毎日のように「大統領令」にサインを続け、Twitterもやめない。攻撃的な言動で世界に不安と緊張を振りまいているが、彼の手に「核のボタン」があるというのは人類にとって不幸なことである。
 
<初出:2017.1>

軍事演習、ザパド2017

 米韓軍事演習が先月末で終了した。これを隠れ蓑に北朝鮮指導者の暗殺を謀る「斬首作戦」などが噂されていた。かの国の指導者としては(映像では満面の笑みだったが)不安な夜を過ごしていたはずで、まずは一安心というところだろうか。大嫌いなB-1爆撃機の夢も、しばらくは見ることはあるまい。

 
 この演習、B-1爆撃機を日本の航空自衛隊機がガードするような派手な映像が多く流されたが、演習の多くはソウル地下の司令部で、コンピューター・シミュレーションで行われたようだ。近代戦の要綱は、C3Iと言われ、Command, Control, Communication and Intelligence である。先進国の軍隊はかなり以前からデジタル化され、歩兵すらもネットワークに組み込まれたオペレーターと位置付けられている。
 
 米韓軍事演習を、半島の緊張と高めるものと非難してきたロシアであるが、今度は自ら演習をするという。場所はロシアの西方(ザパドとは西方の意味)、つまり東欧諸国をにらんでのものだ。
 
 

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 この演習も、かなりの部分はコンピューター・シミュレーションで行われるようだ。トランプ大統領誕生に関わったとされるサイバー部隊も参加するのかもしれない。ロシアのサイバー部隊は、2005年にエストニアを大混乱に陥れたり、2008年のグルジア侵攻の尖兵を務めるなど古くから「活躍」している。近年のウクライナの大規模停電にも、関与が疑われている。
 
 ロシア(だけではないが)が米韓軍事演習に、何らかのサイバー攻撃をしかけて偵察行動をしたことは容易に推測できる。今度は米軍が、ザパド2017に侵入を試みるだろう。この記事は「奇妙な戦争」と言っているが、このような「Intelligence 行為」も含めて、サイバー空間では日常、戦争していると思っていい。さて、戦争放棄国家日本はどうするべきなのでしょうか?
 
<初出:2017.9>

日本のランチボックス

 先だって米国のある団体がやってきて、業界団体でフリーディスカッションをするというランチに誘われた。お弁当につられて、のこのこ出かけてみた。僕が普段会うアメリカ人は、来日経験も豊富な「日本通」が多い。片言の日本語も話すので、英語の能力が十分ではない僕も、なんとかコミュニケーションできる。
 
 今回、最初に紹介を受けた時に「7名のうち6名は日本が初めて、あとのひとりも20年前新婚旅行できて以来」と聞いて、困ったなと思った。以前にも書いたが、専門領域の話であれば、基本が英単語なのでなんとか通じる。しかし、日本の歴史・文化のようなことになると、その領域の英単語がわからない。

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 救ってくれたのはお弁当だった。皆、日本のお弁当に目を輝かせたからだ。きちんとセパレートされた区画に、少しづつ料理が美しく盛り付けられている。これは何だ、どういうソースだ、という話が始まり、恐れていた歴史・文化は口に上らない。
 
 それにしても初来日にしては、上手に箸を使うものだと思った。最近は日本の牛丼屋にすらスプーンが置いてあって、日本人と思しき若者が箸を使っていないのに。彼らは皆、ワシントンDCの住人である。聞くと、中国料理店や韓国料理店、日本料理店は良く利用するという。
 
 そうはいっても、こういう「お弁当」は初体験だったようだ。無事にランチが終わり、あとは普通のミーティングになった。一安心である。外国で食べるランチボックスは、一般に味気ないものだ。台北で食べたのが一番日本のものに近いかもしれないが、ご飯の上に具を並べた「ぶっかけ弁当」のようなものだった。そういう意味では、知らず知らずのうちに、日本の文化を紹介していたのかもしれない。
 
<初出:2016.7>

圧力鍋爆弾

 国連総会の始まったニューヨークで爆発事件があり、29人の負傷者が出たという。これに先立って、隣のニュージャージー州でも爆発事件があった。さらに、圧力鍋にワイヤのついた不審物まで見つかっている。
 
 2013年には、ボストンでマラソン大会を狙った爆弾テロがあった。ここで使われたのも、圧力鍋だった。日本赤軍など過激派の時代から、手製爆弾はよく使われた。例えば「鉄パイプ爆弾」。内部で火薬を燃焼させてガス圧を高め、外壁の強度が限界になったところで爆発するのだが、その時の圧力が高ければ高いほど規模の大きな爆発を起こせる。
 
 そういう意味で、鉄パイプより内部容量が大きく相応の耐久力を持った圧力鍋は、恰好の爆発物容器になるのだ。この手の爆弾は、特別な専門知識が無くても作ることができる。ボストン事件の後には、日本のTV局が競って手製爆弾の作り方を放送して、物議をかもした。バラエティ番組のキャスターが、「こうして、ああして、これを入れてワイヤをつなぎ・・・出来上がったのがこれになります」などと、料理番組のような解説をしていた。願わくば、圧力鍋を人間に対して使わないでほしいものだ。

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 今回の事件、まだ不明な点ばかりだが防犯カメラに不振な人物が映っていたよううだし、犯人の特定・逮捕はそう難しくはないだろう。しかし、死者が出なかったとはいえ社会全体に与える影響は大きい。タイムズ・スクェアが閉鎖されたり街が警官で埋め尽くされて、自由な往来が制限されることになる。それどころか、町に出ることそのものが減るだろう。犯人の意図はともかく、社会全体がおびえて経済活動が停滞するのが、この手の犯罪の最大被害である。
 
 別のニュースでは、ミュンヘンの「オクトーバー・フェスト」の紹介をしていたが、こちらも厳戒態勢。来場者の荷物検査を徹底し、武装警官が周りを固めている。ソフト・ターゲットはどこにでもある。すべてを守ったり警戒することはできない。テロとは、テロル(恐怖)の意味である。一般市民を含めて恐怖を与え、安穏な日常を送らせないことがその狙いである。
 
<初出:2016.9>

南ドイツの憂鬱

 ドイツ南部バイエルン州アンスバッハで、自爆テロがあったらしい。死亡者はこのシリア人の男(27歳)だけで、12名以上の負傷者が出たと報道された。野外音楽祭に2,500名以上の参加者があり、その近くの路上での爆発だったので、その音楽祭(ソフトターゲット)を狙ったものの入場できずに自爆したとも考えられる。

 今月になって、テロとはこれまで無縁だったドイツで事件が頻発している。ビュルツブルグでは、列車の中でアフガニスタン難民の17歳の男が斧とナイフを振り回し、4名が負傷した。ミュンヘンでは、イラン系の18歳の男が銃を乱射し、9名の犠牲者がでた。一目見たところでは、この3件に「若い外国人の犯行」以外に共通性は見られない。ただ「斧・ナイフ⇒銃⇒爆弾」と凶器がエスカレートしているのが気になる。

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 ドイツにも銃規制はあり、狩猟やコレクションなどちゃんとした目的がないと実銃は所持できない。21歳以上という制限もある。ISISが持ち込んだものだろうか?ましてや爆弾は?火種となってる中東やアフリカ、中でもレバノン・シリア・アルジェリアイラクなどの旧宗主国だったイギリス・フランスに対しては、微妙な感情を持つ人たちもいるだろう。イギリスでもかつて同時爆破テロがあり、フランスは今でも非常事態宣言中だ。しかし、ドイツはそういう植民地を持っていなかったし、第二次大戦からずいぶんたって受け入れた移民・難民が多かったはずだ。

 かつてのユダヤ人迫害の反省と罪滅ぼしから、寛容な移民政策をとってきた。教育や職業訓練、手厚い保障などは、シリア難民の多くがドイツを目指したことでも明白である。イギリスはEU離脱で移民に門戸を閉ざし、フランスは非常事態宣言を継続して移民・難民を白眼視する、この上ドイツで移民政策の転換が図られるようになることが懸念される。

 ドイツ国内でも、移民政策が寛容すぎるという批判は以前からあった。国粋主義の台頭もあるようだ。ヨーロッパを代表する3国が「内向き」になれば、南北問題は一層深刻になるだろう。しばらく、ドイツの世論に注目したい。
 
<初出:2016.7>