本当に久しぶりに「終末時計」という言葉を聞いた。僕が子供の頃は多くの戦争経験者がいて話を聞かせてくれたし、冷戦構造だったので核戦争の脅威が社会を覆っていた。映画化もされたネビル・シュート「渚にて」や小松左京「復活の日」を読んで、人類滅亡ってこういうことかと妙な納得をしていた記憶がある。
米ソ間に緊張が走り核戦争の可能性が見え隠れしてくると、終末時計が少し進む。後年は温室効果ガス排出が増えているというので、やはり時計が進む。そういう頃を、今回の報道で思い出してしまった。先進各国で極右政党などが台頭して、しばらく前に残り3分に進められていたのだが、今回はトランプ効果(?)で30秒進んだという。
これまで残り時間が最短になったのは、米ソ両国が核兵器を手ににらみ合った1953年の「残り2分」。両国をはじめ核保有各国が核兵器を量産・配備し、これらが発射されたら「人類最後の日」がくるかもしれないとの危機感が最も高まった時期である。広島・長崎に投下されたのは今にして思うと小型の核爆弾だが、それでもひとつの都市を壊滅させる効果があった。
こうなると、実はこの兵器は使えない。相互確証破壊(MAD:Mutual Assured Destruction)と言われる状況になり、狭い部屋の中で誰の持っている爆弾が破裂しても「みんな死ぬよね」というようなものである。またゲリラ戦のように、紛争の相手が国という単位で無くなるLIC(Low Intensity Conflict)も増えてきたが、こういう相手には核兵器は効率的な手段ではない。以上の理由で、十分すぎるほど持っている国としては核軍縮の方向に向かっている。何しろ、使えないのに維持費が高いのだ。
トランプ大統領は毎日のように「大統領令」にサインを続け、Twitterもやめない。攻撃的な言動で世界に不安と緊張を振りまいているが、彼の手に「核のボタン」があるというのは人類にとって不幸なことである。
<初出:2017.1>