Cyber NINJA Archives

2016年からの旧ブログを整理・修正して収納します。

イスラエルという国の覚悟(後編)

 アフナーチームはフランクフルト、パリ、ローマ、ロンドンなどに散り、目標の情報を探る。最初は武装して護衛も付いている目標を避け、西ヨーロッパの街で普通に暮らしている者を狙った。主な情報はパリに潜伏する西ドイツ赤軍(!)と、それに連なるスジから入ってくる。

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 アフナーチームのメンバーは、皆西ヨーロッパで育つか仕事をしていた経験がある。ミッションのためには、英語、フランス語、ドイツ語などに堪能である必要があった。アフナーも西ヨーロッパ系のユダヤ人だが、工作管理官のエフライムらは東ヨーロッパ系の「ガリシア人」と呼ばれる人種だった。
 
 ユダヤ人とはユダヤの教義を信奉する人程度の意味だから、いろいろな人種がいて東洋系やアフリカ系も多い。しかし中心となったのはヨーロッパ系だが、そこにも2種類の人種があったことは本書で初めて知った。
 
 開放的な雰囲気で育った明るい西ヨーロッパ系に対し、「ガリシア人」は厳しい環境で育ったせいかネクラで狡猾だという。しかし役割はあって、管理官や経理部門には向くようだ。うーん、僕の会社人生も経理との戦いだったから、このコンフリクトはよくわかる。
 
 閑話休題、アフナーらは6名の目標を小型爆弾や拳銃で倒す。拳銃は小型の22口径ベレッタ、決して.44口径マグナムや銃身を切り詰めた散弾銃ではない。ベレッタに弱装薬弾をつめれば、ほとんど銃声がしないのだ。2人で至近距離から襲い、ダブルタップ(2連発)を2回以上放つ。これなら小口径とはいえ確実に殺せる。
 
 ベイルートに籠る目標3名については、所在情報などを入手し特攻チームに処理を任せたが、残る目標は2名となった。しかしそこで女殺し屋に襲われ、メンバーの一人が殺されてしまった。何者かが彼らの存在に気付き、反撃に出たのである。またメンバーも繰り返す殺害計画/実行に倦みPTSDの兆候を示すようになる。僕ならこの時点で足を洗うのだが、アフナーらは女殺し屋を始末し次の目標を狙う。
 
 結局3名のメンバーを失い、アフナーは別の名で米国に渡ることになるのだが、ノンフィクションゆえの迫力は比類がない。逆に、殺し屋に狙われたらこういうことをしてはいけないという教訓のような書でした。
 
<初出:2018.4>