今年になってイスラエルに初めて行ってみて、「アラブの海に浮かぶ国」の実情を垣間見たような気がした。会ったのが政府関係や、セキュリティ関係の人ばかりだったせいもあろうが、明るい中にもいざという時の覚悟を感じた。そんな記憶が残る中、ふと手に取ったのが本書。
1972年ミュンヘンオリンピックにパレスチナゲリラが潜入、11人の選手やコーチを虐殺した。ただでさえ人口の少ないイスラエル、その中でも優秀な子孫を残せることから社会として重要なアスリートを殺されたこともあって、イスラエル政府が受けたショックは大きかった。
ここに至りゴルダ・メイア首相は決断を下す。報復として、パレスチナゲリラの主要人物11名を暗殺することにしたのだ。その役割を任せられたのが、アフナー(仮名)という25歳の特殊部隊員。書類偽造や爆発物の専門家など4人のチームを率いて、西欧各地に拠点を設ける。
本書は、今は別の名前で米国で暮らすアフナーに著者がインタビューしたノンフィクションである。アフナーチームの工作管理者エフライムは、アフナーに「必要な資金は用意する。報酬も従来よりは上がる。しかしそれ以上の支援はしない」という。
「Mission Impossible」冒頭にあるように「君、もしくは君のメンバーが捕らえられ、あるいは殺されても当局は一切関知しない」というわけである。これに加えて、11人のヒット(暗殺)リストを渡す以外の情報も与えない、自分で探れ、成功しても報告は要らない、新聞に死亡記事が載ればそれでいいと言う。完全に独立したチームとなった彼らは、西欧の共産テロ組織などに接触、動静のわかった目標から順に殺害計画を立て、実行してゆく。
ターゲットの日常を調べ一人になる場面を慎重に探るのは、「決して他人をまきこんではならない」と言明されているから。イスラエル政府は報復はするが、無関係な人を傷つけては「唾棄すべき無差別テロリスト」と同じになってしまうと考えたのである。
<続く>