Cyber NINJA Archives

2016年からの旧ブログを整理・修正して収納します。

適正な防衛費のGDP比率

 ビジネスマンであることを誇りにしているトランプ大統領は、やはり成果や目標を数字で示すことを重視している。NATO北大西洋条約機構)の首脳会合に出席した彼は、米国以外の参加国が果たすべき義務として「防衛費のGDP2%以上」を早期に達成するよう求めると思われていた。これは従来の申し合わせ事項ではあるが、各国の国内事情もあって未達の国が多かったからだ。しかし情報によると彼は「GDP4%」への拡大を要請したという。

https://jp.reuters.com/article/nato-summit-trump-spending-idJPKBN1K12OJ 

 最強のネゴシエータと自負するトランプ先生は、高めのボールを投げ折り合った形で交渉相手に目標数値を飲ませることを常套手段にしている。だから、2%なんてケチな事をいわずに4%と吹っかけたのだろう。これで5年後に3%の約束でもとりつけられれば大成功というわけ。

 このことは、日本政府にとっても決して対岸の火事ではない。いくら政権が「日米同盟は磐石」と叫んでみたところで、先方は数字にしか興味のないビジネスマンである。NATO各国が2〜3%あるいはそれ以上を目標にすることになった場合、日本だけが1%で済むはずはあるまい。何年かの経過措置を経て、2%(約10兆円)への増額はありうると見なくてはならない。この増分は消費税にすると約2%にあたる。

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 トランプ先生はNATO諸国(や潜在的に日本らも)が、米国市民の税金にタダノリする形で自国の支出を押さえ産業振興をして米国産業の競争力を上回り、製品を米国に輸出することで米国産業を破壊していると訴えている。米国市民は自らの税金で自らの産業を破壊し、自分を失業させたのだとのレトリックを使っているのだろう。日本や他の国から見れば、これほどあからさまな中間選挙対策はあるまい。しかしそれゆえにトランプ先生はこの主張を下げることはできない。


 大日本帝国GDPと軍事費を調査した資料によると、軍国日本と言われている昭和初期でも平時であれば3〜5%くらいだったらしい。戦時になれば別の話で、日清戦争で8%、日露戦争では15%を越え、太平洋戦争では30%以上になって崩壊した。20世紀と今は違うとはいえ、国際政治が不安定な環境ではやはり1%は少なすぎるのかもしれない。トランプ先生は自分の足元だけ見た「妄言」を吐いていますが、これを機会に自国は自ら守るということのコストを試算して見る必要もあるかもしれません。

 

<初出:2018.7>

凶器としての自動車

 レンタカーとしてトラックを借りる。このありふれた行為が、テロにつながるまでになった。イスラム国は「身近にあるもので異教徒を殺せ」という指示を出しているというが、組織的・資金的にもこれまでのような余裕が無くなってきたのかもしれない。
 
 そうはいっても、単独犯で80余名の命を奪い、50名ほどが重体という被害には驚くしかない。人込みにクルマが突っ込む事故は時々ある。秋葉原歩行者天国に軽トラック(これもレンタカーだった)で突っ込み、人をはねた上にクルマを降りて、倒れている人にナイフを振るうという事件もあった。ニースのテロは、トラックを止めようとした人に対して発砲(おそらくは拳銃程度)し、警官も追い払うという悪質さである。蛇行運転で人込みを狙いながら、かなり正確な銃撃もするというのはどういう訓練をしたのだろう。ただの悪運だったのだろうか?
 
 昔、盗んだ建設機械で店外設置ATMを「ぶっこわす」という犯罪が、顕著だったことがある。日本にはおおむね15万台ほどのATMがあるが、店外設置ものは多くない。いかに建設機械といえど、銀行店舗そのものをぶっこわすのは時間がかかるので、狙われるところは限定できる。当時建設機械にはGPSが搭載されはじめ、どこで稼働しているかどういう動きをしているかは、モニターできるようになりつつあった。今でいう IoT(Internet of Things)のはしりである。
 
 ある建設機械製造会社幹部は、機械のモニターをするきっかけは「店外設置ATMに機械が近づいて犯罪を働くこと」を検知できるようにしたかったからだと語った。今では IoT の技術は、高価な建設機械やタービン・エンジン、ガントリー・クレーンなどに留まらず、一般の自動車にまで適用されつつある。

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 関越道や軽井沢の夜行バスの事故は、多くの(特に若い人の)命を奪った。多くの人の命を預かるこのような車両には、多少のコストをかけてでも動きをモニターしたり、緊急時には制御できる仕掛けを義務付けてもいいのではないか。自動車は「走る凶器」でもある。大型トラックなら戦車とまではいかないだろうが、蹂躙攻撃(Over Run)を仕掛けられることが証明された。
 
 今回はただのトラックだったが、これが危険物搭載のタンクローリーだったらと考えるとぞっとする。以前にも書いたが、技術は社会に貢献すると同時に人を殺めるものにもなる。IoTの技術を、人命を守るためにこのような車両には適用してほしいものだと思う。
 
<初出:2016.7>

鉄のくじら

 呉市大和ミュージアムのすぐ前に「鉄のくじら館」という博物館がある。海上自衛隊を退役した潜水艦「あきしお」が、そのまま飾られている。まさに陸に上がった鉄鯨である。1986年に就役した2,200トン級ゆうしお型7番艦で、2004年まで実戦配備されていた。     

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 司令室含めたいくつかの部屋・通路を巡ることができ、潜望鏡も稼働している。僕も操舵席に座ったり、潜望鏡をのぞいてみたりした。ゆうしお型の後、はるしお型・おやしお型を経由して、現在最新鋭の通常動力潜水艦は「そうりゅう型」となっている。そうりゅう型は基準排水量2,900トン、ゆうしお型から徐々に大きくなってきている。
 
 オーストラリア海軍が日本の潜水艦を導入するかもしれない、と言われたのはこのそうりゅう型のことである。最初の「防衛装備品移転」の成果となるかと思われたが、結果はうまくいかなかった。それでも、世界で最高級の通常動力潜水艦であるとの評価は変わっていない。
 
 第二次大戦中、狭い北大西洋であっても作戦行動ができたUボートは、保有量の1/3程度であった。1/3は作戦区域との往復路にあり、残り1/3は港で整備・修理中だったからだ。その点、原子力潜水艦原子力で動力を得るので、長期間補給が無くても作戦行動をとることができる。冷戦時代、各国が競って原子力潜水艦を開発・配備した理由はそこにある。

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 ただ、原子力潜水艦の難点は音が大きいこと。静かにしているつもりでも、原子炉を冷やす冷却ポンプなどは動かさなくてはならない。その点、通常動力潜水艦は潜航時は電池駆動なので、静粛性は高い。もちろん、艦長は常に電池残量に気を配らなくてはならないが、潜水艦の取柄は隠密性にある。見つかってしまえば、いかに強力でも末路は見えている。
 
 軍機(古い言葉だ!)なので、詳しいことは報道されないが、そうりゅう型の静粛性とセンサー性能は卓越しているらしい。優れているなら「世界中に売りたい」というのが、当たり前の話。ただ、長く戦後日本に浸透していた「武器輸出三原則」からは議論を呼ぶところだ。そこで、政府は2014年に「防衛装備品移転三原則」に改めるとした。文字を置き換えただけであるが・・・恐るべし日本の官僚の語彙力。
 
<初出:2016.8>

29,800円の福音

 今年秋の国際会議の企画について、この暑いのに会議をした。2日間の大きな時間割り、複数の会場への割り付けを候補となるセッションを並べて議論する。メイン会場1つに、サブ会場は収容人数の異なるものがいくつかある。キーノートスピーチなどはメイン会場でいいのだが、個々のセッションを複数ある会場にどう割り振るかは、そのセッションの集客数を予測しないといけないのでなかなか難しい。

 
 国際会議というからには、何人か外国人のスピーカーも呼ぶ。彼らのスピーチやパネル等のセッションでは通訳を入れる必要がある。2~3年前のサイバーセキュリティのイベントは、通訳抜きの全部英語でやった。日本人の参加者からは「やはり通訳が欲しい」との意見が寄せられて、3年目から通訳を入れたとも聞く。
 
 同時通訳は一人ではできないから、3~4人体制で入れ替わりやってもらうことになる。通訳さんに支払うお金だけでも、一人15万円/日見当で60万円くらいは覚悟しないといけない。だから、今回同時通訳を入れるのはメイン会場だけにしようと言うことになった。

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 それはそれとして、こんな記事が出ていた。インターネット接続が必要で逐語通訳しかできないようだが、携帯用翻訳機が3万円を切る価格で販売されているという。うわ、これは僕のような英語の苦手なものにとっては福音以外の何物でもない。もう少し進化して同時通訳が出来るようになれば、60万円/日の費用は要らなくなるじゃないかと思った。
 
 今回の打ち合わせでも、ディスカウントしてくれる通訳の会社があると某教授が言っていた。この業界も、デジタル革命によって価格破壊からヒトの仕事が無くなる方向に動いているようだ。そこで思い出したのが、霞ヶ関文化とも言うべき会議の「速記」。各テーブルにマイクを貼り付け、ケーブルを引き回すだけでも大変。もうこういうものは、デジタルで置き換えませんか?
 
<初出:2018.8>

機械翻訳の発展

 機械翻訳という技術は、結構昔からある。高価なソフトウェアとして販売されていた時代もあるが、ユーザの側から見ると、最初は「電子辞書」のようなものだった。

 もともとある英和辞典などをデジタルデータにして、それを検索するプログラムを組み込んでおけば、電子辞書のレベルは出来上がる。次にユーザは1文を入力したら、それを翻訳してくれることを望むだろう。このニーズを満たすには「構文」の解析が必要になる。いわゆるSVOCM(*)が英語ならこのように並ぶ、日本語はVが最後に来る、などの言語による構文形態を覚えておいて、単語をあてはめるというアルゴリズムである。

(*) S:Subject(主語) V:Verb(動詞) O:Object(目的語) C:Complement(補語) M:Modifier(修飾語)

 しかし、いくら大量に構文のパターンを覚えさせてもうまくいかない例は無数に出てくる。Wikipediaは例として次のようなものを示している。

 (例) 英文 Time flies like an arrow. について、普通はこれを 「時は矢のように飛び去る 」(光陰矢のごとし)と解釈するが、これを 「時間蠅 は矢を好む 」 と訳することも可能で、文法的にも破綻がない。

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 そこで、より多くの辞書、より長文の辞書を整備することになる。どのようなシーンで出てくるかも辞書に記憶されるようになり、1件あたりの辞書データそのものも大きくなる。それでも、構文が基本で辞書で補完するという考えが普通だった。

 それをひっくり返したのがGoogle翻訳。膨大に蓄えられたインターネット上のデータには、対訳になっているものも相応にある。問題文が与えられたら、インターネット上で一番これに近いものを探してくる。次にその対訳を見て、回答文にするわけだ。これは辞書が極端に大きくなった翻訳システムと言えるだろう。逆転の発想だし、ビッグデータ活用の一例である。この辞書は日を追って大きくなるし、翻訳精度もあがる。

 もちろん「似たものを探す」過程では、構文の知識を使っているだろうから、従来技術・技法を無視したものではない。しかし、今後もインターネット上の膨大なデータは常識をくつがえし、新しい発想を生んでいくことだろう。
 
<初出:2016.6>