「EU域内の拠点に勤めている従業員の情報を日本に持って帰るのが面倒」くらいの話であれば企業経営に大きなインパクトではないかもしれない。それでも産業界に聞くと「そのくらいの不利益しか聞こえてこない」とメディアや、霞ヶ関の人たちは言う。企業はなかなか本音を言わないものだし、聞く相手が適当でないのかもしれない。
僕が考えるに、BtoB型のビジネス中心の企業よりもBtoC型のビジネスをしている企業がより深刻に悩んでいるはずだ。家電品などを買ってもらった消費者の管理は、ひとつあり得る。ただ従来型のお客様管理方法であれば、EU域内のことは当該拠点に任せておけば済む話で、わざわざ誰が買ったかまで日本の本社に送る必要はないだろう。
しかしBtoCの中でも、ネットサービス系のビジネスならそうはいかない。通販・音楽配信等を考えてもらえば、消費者がどういう嗜好でどのような消費行動をするかを、グローバルに一元管理するのは当たり前。そしてその情報はまぎれもなく「個人情報」である。こういう企業が、EUからの越境データ移転規制に反発しないほうがおかしい。
ただBtoB型企業だからといって、いつまでも安穏としてはいられない事情もある。製造業のサービス事業化などというが、売り切った機器でもそおれが発するデータを持ち帰り、運用のアドバイスやメンテナンスの効率化につなげたり、製品の改良に生かすことが普通に行われるようになってきたからだ。
これは個人情報じゃないと普通の方はおっしゃるだろうが、乗客の人数・男女別・乗客の動き・選んだメニュー・選んだ機内エンタメ等々もデータとして採ることができるとしたら、個人情報か否かの線引きは難しくなる。難しくなれば当然「厳しい方に倒れる」のがEU委員会、だとすると悩みは尽きない。
<続く>