Cyber NINJA Archives

2016年からの旧ブログを整理・修正して収納します。

機動力こそ戦力(ドレッドノート級)

 太平洋戦争開戦直後、日本海軍の新鋭機「零式艦上戦闘機」は、フィリピン・インドネシアインドシナ半島一帯を暴れまわった。日中戦争で経験を積んだベテラン操縦士も多かったし、速度も武装もこれまでの戦闘機とは一線を画すものだったから、事実上無敵と言ってもよかった。

 
 しかし本当の「零戦」の強さの秘密は、その航続距離にあった。有名な撃墜王坂井三郎は、この単発飛行機で滞空9時間を記録したという。航空参謀だった源田実は、欧州大戦の戦闘機を評して「トリではない、バッタだ」といった。確かにドイツの主力戦闘機Bf-109は、ドーバー海峡を渡りイギリス上空で一度戦闘すればもう帰らないといけない。イギリスのスピットファイアだった似たようなもので、狭い欧州ならこれでもよかったのだろう。広い太平洋では、機動力こそが戦力の源泉だったわけだ。

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 似たような話は戦艦でもある。1900年代初めにイギリス海軍が就航させた「ドレッドノート級戦艦」は、従来の主力艦を全部旧式にしてしまったと言われた。統一された砲口兵装、中心線上に並べた主砲などの新機軸以上に、巡航速度が従来艦の倍になったことが大きい。これで1艦がカバーできる海面は4倍になった。
 
 
 この度、海上自衛隊の新鋭リチウム潜水艦は、電力容量が8倍になって行動半径が広がったとの記事があった。実戦になれば潜水艦の1/3は戦地に、1/3は戦地への往復途上に、1/3は港で整備・補給という運用になる。行動半径が広がれば、1隻のカバー海面が広がるので「ドレッドノート」同様4倍の戦力を得ることになりそうだ。
 
 もともと、日本の潜水艦の静粛性は世界一だ。これがどこに潜んでいるか分からない、その海面が広がったとなれば仮想敵海軍艦艇の行動は大きな制約を受ける。これが抑止力になって、戦争に至らなければいいのですが。
 
<初出:2019.2>