Cyber NINJA Archives

2016年からの旧ブログを整理・修正して収納します。

指定金融機関の憂鬱

 鳥取県日南町、中国山地の真ん中に位置する町で、現在の人口は4,700人余り(平成27年)。昭和35年には15,000人を超えていたのだから、1/3以下になってしまった過疎の町である。ここで、鳥取銀行が支店を引き上げることを公表すると、町長がその報復として5.6億円の町の預金を同行から引き下ろして事件になっている。ようやく銀行の頭取と町長の会見にこぎつけたものの、事態の解消には至っていない。支店引き上げも撤回されず、預金も戻ることは無かった。

 
 
 確かに銀行の支店が無くなると、町民の事業や生活に支障をきたすことはある。それ以上に問題なのは、町行政への影響である。日南市のホームページによると、指定金融機関(以下指定金)は、山陰合同銀行鳥取銀行、農協、郵便局となっている。どういう事かと言うと、、この4つの金融機関経由でないと、税金や公共料金の徴収が出来ないのである。
 
 かつて高度成長期(日南町エリアが15,000人の人口を持っていたころ)、金融機関は各自治体の指定金の座を争った。指定金以外で納税者等が支払ったものも、最終的には指定金で処理されてそこにある自治体の当座預金口座に入る。当座預金口座には金利は付かないので、金融機関はそのサヤを抜ける。その一方、膨大な事務手続きを安い手数料(場合によってはタダ)で引き受けるというビジネスモデルだったと当時のことを知る金融機関の元役員から聞いたことがある。

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 これは、自治体財政に余裕があって当座預金口座に十分な残金がある場合にはうまく機能した。しかし財政が苦しくなると、お金を遊ばせておくわけにはいかない。自治体は、入る片端からひき下ろすようになった。こうして、指定金制度を支えていたビジネスモデルが危機に瀕したわけだ。今回の日南町の騒動も、単純に支店が無くなって町民の利便性がそこなわれるという話ではあるまい。鳥取銀行としては日南町の指定金を辞めたいのだろうし、町としては市中銀行の指定金が山陰合銀ひとつになるのは困るということではないかと思う。
 
 高度成長期に日本を形作ったいろいろなスキームでまだ残っているものは沢山ある。良く保っているというものを時々みるが、指定金制度もそのひとつ。FinTech、キャッシュレス社会など銀行業界を待ち受ける変化は多く、指定金問題も彼らの覚悟を問う試金石になるのかもしれません。
 
<初出:2018.9>