Cyber NINJA Archives

2016年からの旧ブログを整理・修正して収納します。

スカスカ法案の意味

事実上の移民政策と言われた入管法改正案、昔懐かしい牛歩戦術まで飛び出したが結局は成立した。メディアの多くは、生煮えの法案、強硬な国会運営などと批判したが、一方労働力を留学生や技能実習生に頼っている農業・外食・介護などの現場からは期待する声も聞かれた。

 

 今の留学生や技能実習生の生活実態や、その背景にある人材ブローカーの存在など、現状の問題点は一杯あるし、今回の法改正で新設される在留資格、特定技能1号2号などの運用にも疑問点は多々ある。多くのメディアが「スカスカの内容だ」と称した法案が、なぜ国会に上程され強引な手法で成立させられたのだろうか。
 
 
 低価格の外食チェーンに行けば、怪しげな日本語が飛び交うのは当たり前。どうやって入国したかは別にして、現実に外国人労働者は街にあふれている。これらの人たちに、ある程度安定した立場を与える必要はある。また人手不足倒産の話もよく聞くし、物理的な労働力が必要なこともある。

    f:id:nicky-akira:20190608103710p:plain

 しかしどうしてここまで「拙速」にことを運ぶ必要があったのかは、一考してみるべきだ。来年夏の参議院選挙前に、この法案をあげる必要があったのはなぜか?僕は、これは小規模企業対策だと思う。これらの企業は自民党の支持基盤なのだが、大企業や中堅企業と違ってグローバル化やデジタル化の波に乗り切れず疲弊している。
 
 「働き方改革」などと言わなくても、日本企業の生産性向上は大きな課題だ。そのためには、ある部分の仕事を外国に頼ったりICT活用により合理化を図らないといけないのだが、小規模な企業はこれに対応が難しい。純粋資本主義的に考えれば、そのような企業は市場競争力を失って淘汰されるはずだ。しかしそれでは、政権与党は支持基盤を失って選挙に敗れることになろう。
 
 そこで限定的ながら物理的な労働力を受け入れるという、「弥縫策」をとったのではないだろうか。そうだとすると、参議院選挙前、詳細はこれからというような拙速策も理解できる。ただ本質的には、個人も法人も真のグローバル化やデジタル化に正面から取り組むべきであって、そうでなければ市場から退場させられるはずなのだ。
 
 この法案、人手不足に悩む企業・業界に対して短期的にはある程度の効果をもたらす。しかし中長期的には、日本産業界やその従事者にとって変革の時期を失わさせる「麻薬」になるような気もする。個人も法人も、もちろん政府も、中長期的な視点に立つべきかと思うのですが。
 
<初出:2018.12>