Cyber NINJA Archives

2016年からの旧ブログを整理・修正して収納します。

自動車設計の順番

 自動車が大衆のものになるきっかけを作ったのは、T型フォード(1908年~)である。それ以降、ガソリンを燃料とし内燃機関を動力とした自動車の数は増え続けた。ガソリンというのは気化しやすい液体で、非常に引火しやすい。対戦車兵器の乏しかったソ連軍は、ドイツの戦車に「モロトフ・カクテル」という火炎瓶で立ち向かった。どういうわけかドイツ軍はガ ソリンエンジンを使っていたので、こういう攻撃にもろかった。ちなみに、ソ連軍の戦車(例:T-34)はディーゼルエンジンである。

 危険物であるガソリンを満載した自動車が、多数都会を走り回るというのはある意味危険な光景であろう。それゆえ、貴重な事故事例や犠牲の上に、さまざまな安全対策が自動車には盛り込まれた。衝突時に衝撃を抑えたり、ガソリンタンクを保護したり、スリップしにくいタイヤや足回りを開発したり、乗員を(シートベルトやエアバッグで)まもったりしてきた。 
 
 自動車の設計手法を想定するに(間違っていたらごめんなさい)、まずシャーシを置いて、その上にエンジンやトランスミッション、ギアボックス、ガソリンタンク、バッテリー、シート、ボディ等を載せていく。それらを制御・エレクトロニクス系でつないで完成、というのが常識的だろう。基本的に自動車は「メカ」なのだから。

 それが、しばらく前から自動車が「メカ」とは言いづらいようになってきた。各パーツをマイクロ・プロセッサが制御し、それらを車内ネットワークがつなぎ始めたのだ。ガソリンエンジンと電池のハイブリッド動力で動く自動車が普及したり、完全に電池だけで動くものも登場した。

 デジタル屋である僕が設計するならば、自動車をコンピュータと同じように考えるだろう。まず置くのは車内ネットワークである。これに各パーツの制御プロセッサをつなぎ、プロセッサの下にパーツを付ける。最後にこれらのパーツを支える形でシャーシを置く。これがデジタル設計主導の自動車である。

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 なんとはない違いのようだが、設計思想の違いはあとになって出てくる。例えば「自動運転」をしようとしたとき、メカ自動車は自動運転に関係あるパーツの改良から入る。この自動車は自動運転に最適な制御アーキテクチャをソフトウェアで構築し、それを実現するためにパーツを改良する。もっと言うと、世の中にある最適なパーツを調達してくる。自動車メーカで重要なのは全体最適を図るソフトウェアであって、これだけは自社で開発しないと競争力がなくなるわけだ。

 今日自動運転中で初めての死亡事故があったとして、米国当局が調査を始めたという報道があった。危険物ガソリンの安全対策とは違った対策が、これから求められよう。技術は必ずこの障害を乗り越えていく。死亡事故があるから自動運転はやめようなどと、短絡的なことを言わないで欲しいと思う。
 
<初出:2016.7>