多くの日本人は、ソウルの中心は明洞だと思っているかもしれない。明洞は確かに市庁舎は近いし、ウルチロ(ロ=路)という通りにはロッテ百貨店などおなじみのところが多く、東へ行けば「東大門」、南西に行けば「南大門」、南にはソウルタワーがそびえたっている。
しかし政治の中心はそれより北にある青瓦台である。もっとも今は空き家。もうひとつの中心は国会で、議事堂は明洞から「南大門」を越えてずっと南西、漢江の中州とも言うべきヨイド(ド=島)にある。この中の島は、昔日本軍の飛行場があったところらしい。坂のようなものはなく、6車線級の大通りや広い公園があって、開発が進んでいる。
ここにはIBMやデロイト・トーマツなど外資系の企業のオフィスもあり、業界団体のビルもある。ここで、2日あまりの会合に出席してきたわけである。いろいろ物騒な報道がある中ある意味覚悟を決めて出掛けたのであるが、職場の幹部は「葬式は出してやる」と妙なエールを送ってくる。
で、現地に行ってみると、軍事衝突を危惧するような緊張感はまるきりない。普通に会議をやり、会食をし、ソウルの観光パンフレットが配られ、(僕は行かなかったが)観光ツアーのような招待もあったらしい。ホテルに帰ってYahooやGoogleのニュースを見ると、米国の航空母艦「カールビンソン」が朝鮮半島をにらむ位置についたとか、海上自衛隊と共同訓練をしたとか、北の陸軍が砲撃訓練をしたとか勇ましい話ばかりである。
そこで現地の人に聞くと、かの国が騒ぐのは毎度のことで多少そのトーンが上がって来ても特に気にしていないとのこと。僕はかの国はそうかもしれないけれど、動きを予測できない軍事大国ができてしまったと言おうとしたのだが、徒に脅しても仕方ないと思ってやめた。現に僕は生きて帰ってきたが、かれらの生活はずっと続くのだから。ただ、少し騒ぎはあったようだ。ソウル上空を軍用機が飛び、すわ開戦かという電話が公的部門に何件か掛かってきたらしい。
なんとか「大規模な紛争」(トランプ大統領のインタビューから)など起きないでもらいたいのですがね。
<初出:2017.4>