Cyber NINJA Archives

2016年からの旧ブログを整理・修正して収納します。

バイエルンの火の手

米国はあんな調子で方々にかみつくわ、英国は「Hard Brexit」の危機にさらされているわ、朝鮮半島は(僕に言わせれば)液状化しつつあるわ、世界中暗雲が立ち込めてきているが、比較的安定感のあったドイツでも与党に翳りがさし始めた。先日のバイエルン州の総選挙で、与党キリスト教社会同盟CSU)が過半数を割る惨敗を喫したというのだ。

https://www.yomiuri.co.jp/world/20181015-OYT1T50054.html 

 バイエルン州(かつてはバイエルン王国)は、ドイツ連邦13州のうちでも最大の規模を持ち、ベルリンの政治家たちとは一線を画す産業主導エリアである。マイスターの伝統を重んじ、技術者(職人)の社会的地位が高いところだ。独自外交もしていて、日本にはバイエルン州政府代表部があることは以前にも紹介した。政治的には穏健右派のCSUが長く議会の過半数を占めてきた。メルケル首相のキリスト教民主同盟(CDU)はこの州では活動せず、CSUとの連立政権を組んできた。

 まだ第一党を譲ったわけではないものの、保守色の強いこの州でCSUが議会に過半数を割り、極右政党ドイツのための選択肢(AfD)が初めて議席を得たことはインパクトがある。バイエルン州与党は、ファナティックなほど原発嫌いで有名な緑の党(今回第二党)との連立協議をすることになりそうだが、主義主張の違う野合になりかねかい。バイエルン州で上がった火の手は、メルケル首相の本丸にも直ぐに燃え広がりそうだ。

    f:id:nicky-akira:20190529074517p:plain



 もちろんこのような変化をもたらしたのは、難民・移民政策である。シリア内戦は終息の兆しを見せないし、アフリカ諸国からの流入も止まない。トルコ・イラクの民族問題も深刻だし、パレスチナ難民の環境も厳しくなってきている。これまで難民・移民に寛容だったドイツでも、とうとう彼らを排斥する方向に行くことになりそうだ。この3年ほど足が遠のいているウィーンでは、最後に行った時に駅でたむろする難民と思しき人たちを見た。オーストラリアも最初は受けいれていた彼らをブロックしはじめてしばらく経つ。

 ドイツは清潔で秩序正しく、旅行先としては気に入っているのだが、どちらかというと多様性の少ない国。右向け右となったら、本当に皆な右を向く傾向があり動き出したら止められない。大国とはいえ人口は1億人に満たない国でもある。ある一定以上の移民・難民の受け入れは難しいのも事実で、この国が「国境のカベ」を作り始めたら、世界経済には深刻な打撃になるでしょう。

 

<初出:2018.10>