Cyber NINJA Archives

2016年からの旧ブログを整理・修正して収納します。

IMF全廃条約のマルチ化

 トランプ先生が、レーガンゴルバチョフ間で結ばれた伝説のデタント「中距離核戦力(INF)全廃条約」からの離脱を表明して約半月が経った。表向きはロシアが約束を守っていないという理由だが、これが2国間条約であることから第三国が現われ顕著な脅威となると、必然的に見直しが迫られる性質のものだった。

 
 今回米国の念頭にある第三国とは、中国である。中国の軍拡の勢いは止まらない。南シナ海に拠点を作り空母艦隊を増強したり、核戦力の強化や宇宙の軍事利用と見られる動きもある。

http://www.afpbb.com/articles/-/3194273 

 経済はもちろん軍事などあらゆる面で中国を封じ込める意思を示す米国は、核戦力でも中国にひけをとるわけにはいかない。その足かせとなっていたのが、ロシアとのINF全廃条約だった。        

        f:id:nicky-akira:20190525144503j:plain


 中距離核戦力とは射程が500〜5,500kmの核兵器をいう。5,500kmとは米国とロシアの間の距離と言われ、本国同士で撃ち合う「戦略核」ほどの射程は無いものだが、原子砲から発射される核砲弾や核魚雷などの「戦術核」よりは遠くを攻撃できるものである。辞書によれば「戦域核」と訳するようだ。北朝鮮が開発したというノドンやテポドンに搭載される核弾頭も、これにあたるだろう。

 「戦域核」のメリットは、実質的に使える最大の核兵器であることだ。戦略核の威力は無類だが、これを撃ち合ったら確実に相互破壊(MAD)になる。地球の終わりなので、これは使えない。戦術核は前線では頼りになる/脅威になる兵器だ。1門の原子砲が、膨大な数の砲兵大隊の斉射に匹敵する威力を持っている。
 
 しかしこれを上回るのが「戦域核」、軍事上のオペレーション(作戦)レベルで言えば、1発でひとつの作戦を完結できる威力がある。第二次世界大戦を例にとれば、1発でソ連を始末するには足らないが、半年以上かかったスターリングラードの闘いを1日で終わらせることができる。

 核兵器は開発だけでなく維持管理にも相応のコストがかかる。米ソ冷戦期は、それでも通常戦力でこれほどの威力を実現しようとするともっと多くのコストがかかった。つまり核はコストパフォーマンスのいい兵器だったのだ。実質的に使えない戦略核は最終兵器として廃棄できないが、それに近い威力で世論を考えれば使いにくい戦域核はコストパフォーマンスが悪くなったのがINF全廃条約の背景だった。それも、中国という新しいプレーヤーの登場で先祖返りしそうだ。願わくば、中国も含めた新しいINF全廃条約を締結して欲しいものです。
 
<初出:2018.11>