Cyber NINJA Archives

2016年からの旧ブログを整理・修正して収納します。

二階建てトラム

 一時期、香港にも何度か旅行している。仕事でも、2度たずねた記憶がある。以前は空港から中心街まで1時間以上バスに揺られていったものだが、エアポート・エクスプレスが開通して便利になった。到着ロビーからそのまま歩いて行って、段差なく乗車できる。九竜駅まで所要21分、香港島中環地区まででも24分で着く。
 
 僕は、九竜半島よりは香港島の方が好きだ。理由は、島には2階建てトラムが走っているから。開業は1904年、香港島の北側を東西にゆっくりと走っている。料金はどれだけ乗っても、2.3HK$(約¥30)。後で開業した地下鉄だと、すぐに5HK$以上かかってしまうので、その安さがよくわかる。

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 2階建てなので、上階からの眺めは大変良い。右の画像は2階の前の席から、すれ違おうとするトラムを撮ったもの。すぐ後ろにもう1台やってきている。行先はいくつかあるので、必ずしも同じ行先のトラムというわけではないが、やってくるときはどんどんやってくる。来ないときは、なかなか来ないものでもある。
 
 速度は遅い。全長約14kmを80分かけて動く(走るとは言いづらい)のだから、平均時速10km強。仮に停留所や信号で止まらなかったとしても、マラソン選手に勝てる見込みはない。その分市民ものんびりしたもので、平気でトラムの前後を歩いて横断してゆく。

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 さて、トラムには前後の違いがある。普通の列車のように、前後に運転席がついているわけではない。従って、終点に着くと、前後を入れ替えなくてはならない。そこで、終着駅(両端と中間に4つで、合計6つある)はループ線になっている。ぐるりと一回りし方向転換をするわけだ。
 
 下の写真は、中間駅のひとつ「北角(North Point)」のループ線の模様である。この周辺は市場になっていて買い物客がひしめいている。まあ商店の軒先だって、トラムにこすられそうなくらいせりだしているのだから、仕方ないが。香港も格差社会である。例えば、上環から北角まで行くにしても、地下鉄に乗っている階層とトラムに乗っている階層は違う。特に、朝の通勤ラッシュ時に乗ってみるとよくわかる。トラムは「庶民の足」なのだ。
 
 最近中環付近の繁華街については、トラムを廃止しようという提案があるようだ。そのあたりのクルマの渋滞がひどいから、ノロノロ走るトラムを取っ払えば渋滞緩和になるだろうという理屈。人の輸送能力については、地下鉄の増発やバスを増やすことで対応できると思っているようだ。僕は観光客のひとりとして、残しておいてほしいと思う。世界の金融中心のようなせちがらいところを、悠然と走るトラムというのが香港島の魅力なのだから。
 
<初出:2016.8>