アガサ・クリスティの代表作の一つ「オリエント急行殺人事件」、意外な犯人を追い続けていたころの筆者が極めたピークの一つである。今回帰りのフライトで、新作のこの映画を見た。登場人物が急行列車の1等車乗客に限られることから映像化がしやすく、登場人物の全てが等しく怪しいので有名な俳優を沢山出演させやすい。過去にも映画化されているし、TVドラマ化も頻繁にある。日本でもTVドラマとされ、三谷幸喜演出で話題を呼んだ。
この作品に限らずクリスティ作品の映像化にあたっては、探偵役のキャスティングが課題になる。ポアロにしてもミス・マープルにしても、風采の上がる外見ではない。老嬢ミス・マープルはともかく、引退したベルギー人警官ポアロは、160cmほどの小男。怪しげな英語を話し、気取った身なりとのギャップが戯画化された印象でそれが売り物とも言える。
映像化しようとすれば、刑事コロンボのような例外を除いて、探偵役は主人公だから長身のハンサムというのが普通。今回は監督でもあるケネス・ブラナーがポアロを演じ、こちらは堂々たる体躯でスクリーン上では映えるのだが、原作とのギャップを感じてしまう。
かつて推理作家の文士劇で大柄な江戸川乱歩がポアロを演じ、「あんなにでかいポアロがあるのか」と評されたこともある。本作品ではないが大兵肥満のピーター・ユスチノフがポアロを演じた映画シリーズでも、「これじゃ、ポアロじゃなくてフェル博士だ」と思ったものだ。