Cyber NINJA Archives

2016年からの旧ブログを整理・修正して収納します。

欧州委員会 vs Apple

 EUの行政機関である欧州委員会(EC)が、加盟国であるアイルランドに対して同国が「Appleから130億ユーロの追徴課税をする」ように命じた。アイルランドにあるAppleの関連会社が、EUの保護政策規則に反した税の優遇措置を受けていたことに対する措置であるという。いわく、

 ・アイルランドに本社を置くと言っても、従業員もおらず実態はペーパーカンパニー
 ・加盟国は特定の企業だけに課税優遇措置を適用すべきではない

 ということのようだ。実態としてはApple Sales International という会社が、世界中の製造業者から製品を買い取り欧州・中東・アフリカ・インドに販売していた「流通拠点」のようなものだったらしい。

 ECの命令に対してApple が「欧州での投資と雇用創出に大きな害を及ぼす」とコメント、法廷でも争う姿勢を見せた。まあこれは当然なのだが、アイルランド政府当局もこれに同調、揃ってEU司法裁判所に提訴するというのが面白い。アイルランド政府当局は円換算で1.5兆円という税金を取るように言われて、それに反発したという事態である。要はアイルランド政府にとって1.5兆円の徴収によりそれより大きな損失を抱えるという判断だろう。
 

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 その損失とは、やはり雇用の喪失ということが予想される。似たような話としては、オランダ政府のスターバックスへの優遇措置がECに違法とされた件があり、これにも米国政府が反論している。EUは加盟各国で「抜け駆け」が起きないように諸般の規制を掛けているのだろうが、各国政府や政治家にとっては「目の前の雇用」をちらつかされれば動いてしまうこともある。

 今年の"Brexit" 騒ぎにしても、EUの規則が厳しすぎて「メルケルに決められてたまるか!」と市民が蜂起したようなものである。EUと加盟各国の間には相応の溝がある。壮大な社会実験であるEUは、そろそろ正念場を迎えるような気がする。
 
<初出:2016.8>