Cyber NINJA Archives

2016年からの旧ブログを整理・修正して収納します。

オープン戦略・クローズド戦略(5)

 このころ「オープンシステム」というのが、コンピュータ業界の新しい潮流として捉えられてきた。言葉の定義としてある人が「システムの構成や仕様がオープンにされているだけではなく、仕様が決められる過程すらもオープンであること」と言っていたのを、今でも覚えている。なんとなく王制から民主制に変わったような、ある種の感動があったからだ。

 CSS(Client Server System)の利点は、前に紹介したIBM/PCのように普及が早いことだ。それゆえ数の力によって、いろいろなアプリケーションソフトウェアが増えていく。ビデオゲーム機とゲームソフトの関係と同様で、普及しているゲーム機には多くのゲームソフトが集まってくるのと違いはない。

 
 さらに大量生産が可能になるので、ハードウェアもソフトウェアも安価になる。だからCSSは中小規模の企業でも導入しやすい。少し知識のある人がいれば市販品を集めて来て構築できるし、運用までやってのけられる。

 さて、PC・EWS・CSSとコンピュータ事業の多くがクローズド戦略からオープン戦略に変わって行った。残ったものは何か?そう、IBMに代表されるメインフレームである。CSSという言葉が出始めた頃は、中心となるサーバーといえどメインフレームの処理能力と比較すれば圧倒的な差があった。しかし半導体技術の進展は、CSSの能力をどんどん高めていく。

 半導体技術の進展はもちろんメインフレームにもプラスであるが、技術を自前に頼っているのでCSSに比べると係っているマンパワーが違う。独自の教育をみっちり仕込まないと一人前になれないメインフレームの世界より、市販本を読んでトライアル&エラーでやってみるとそれなりにできてしまうCSSでは、参入する技術者人口がケタ違いなのだ。

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 加えて、旧来型の機器との接続を確保したり、これまでのソフトウェアの動作を保証したりと古いアーキテクチャゆえの非効率もあったろう。維持や改造にコストがかかるメインフレームは、どんどん成長するCSSに市場を食われ退場していった。一部は「高性能サーバー」の名前で残っているかもしれないが、大きな意味はすでにない。
 
 ICT産業全体として、ハードウェアや基本的なソフトウェアについてはオープン戦略に原則移行してしまった。もちろん、検索・翻訳・地図などアプリケーションの分野では、オープン戦略とクローズド戦略がせめぎあっている。いずれこれらの分野もオープン戦略となり、その上位にくる何かで同様のせめぎあいが起こるだろう。二つの戦略の切り替えタイミング、それが経営の最重要ポイントである。
 
<続く>