音楽関連団体や有名アーティストたちは「音楽の未来を奪う」高額転売に反対すると宣言した。しかし、これまで見てきたように、転売そのものは犯罪ではない。需要と供給で価格が決まるのが普通なら、むしろ普通の商取引からかけ離れていたのが、この業界だったのではないかとすら思わせる。
数年前から、米国ではコンサート会場の模様をインターネットに流すことを容認というより推奨するようになった。録音・録画厳禁、の時代ではなくなっている。インターネットを見た人が、重ねて「ツィート」し、それが大きな流れになって、コンサートそのものの価値が上がると考えられるようになった。
You-tubeの普及やSNSの拡大は、コンテンツそのものの意味も変えつつある。決して急成長しているわけではない音楽業界だから、この流れをうまく捕まえるべきだろう。音楽そのものは永久に不滅だと思う。しかし、音楽業界は時代に合わせて脱皮しなくてはいけない。「音楽の未来」は誰も奪えない。ある種のひとたちのビジネスだけが、奪われる危機にあるだけのことだ。
この業界でも垂直統合から水平分業に移るきっかけが見えてきたのではないか。確かにアーチスト・プロダクション・コンサート等の主催者・施設管理者・権利関係者等、多様な事業者の組み合わせには見える。しかし実態は、これら全てが密結合した垂直統合型の組織ではないかと思われる。そこに、水平分業に慣れたネット業界から「サイバー転売業者」が入ってきてしまった。
僕が最も面白いと思う今後のシナリオは、一部のコンサート主催者が転売業者からデータを貰い(Big Data!)、価格設定を小まめに変えたり、アーチストの組み合わせやイベント内容まで変えてゆく「インテリジェントな主催者」になって勢力を伸ばすことである。
チケット転売対策として「デジタルチケット」や「入場者の顔認証」を取り入れる話も聞くが、そういう戦術的なICT活用ではなく、前記のような戦略的ICT(データ)活用を、この業界にも望みたい。
<初出:2016.11>